EPISODE 26C 1750 Series

− 理想のグランドツアラー −6C 1750 Sport / Gran Turismo (1929)
1929年のローマ国際モーターショーで、6C 1750 ツーリズモと共に発表された6C 1750 スポルト(Sport)。このモデルは、6C 1500シリーズの2番目のモデルと呼ばれることがあるが、実際には6C 1500 スポルト/スーペルスポルトを含めて3番目のモデルにあたり、グランツーリズモ(Gran Turismo)と名付けられた。6C 1500との主な違いはエンジンで、アルファ ロメオの天才エンジニア、ヴィットリオ・ヤーノが設計したスクリュー式のダブルワッシャーでバルブギアを制御するツインカムエンジンにより、高速カムへの瞬時の切り替えを可能にした。そのほか細かな改良も加えられ、最高出力55hp/4,000rpmへと高められ、最高速度は125km/hに達した。
6C 1500に比べホイールベースがわずかに短縮されているが、ボディは従来のスタイリッシュなサルーンボディがそのまま架装された。なおこのシャシーはカロッツェリア、ピニンファリーナおよびカスターニャがデザインしたいくつかのモデルに採用され、アルファ ロメオのポルテッロ工場では累計920台分のシャシーが製造されている。
6C 1750 スポルトは、その優れた性能と、高い信頼性、ならびにメンテナンスのしやすさから“理想のグランドツアラー”と称され、車両価格は54,500リラと、6C 1750ツーリズモ(39,000リラ)に比べてかなり高額だったにもかかわらず、幅広い顧客から注文を得るに至った。
6C 1750 スポルトはモータースポーツへの参戦を目的に開発されたモデルではなかったが、当時盛んに行われていたレースにもたびたび姿を見せた。第3回ミラノ-サンレモでは、カロッツェリア・トゥーリングの創設者であるフェリーチェ・ビアンキ・アンデルローニのドライブで3位に入賞。また1931年のミッレ・ミリアでは、カルロ・ガザビーニとアンジェロ・ガッタ組が総合8位に食い込んだ。だが、6C 1750 スポルトがサーキット以上に本領を発揮したのは、美しさを競うコンクール・デレガンスだった。サーキットでの戦いは、さらなるポテンシャルを追求したスーパーチャージャー付きの高出力仕様、6C 1750 スーペルスポルトが担った。
エンジン | 直列6気筒縦置き フロントエンジン |
---|---|
構造 | モノブロック 鋳鉄ヘッド |
排気量 | 1752cc |
ボア×ストローク | 65×88mm |
バルブ形式 | ベベルギア駆動 ツインカム |
バルブ数 | 気筒あたり2バルブ |
圧縮比 | 5:1 |
燃料供給方式 | ツインチョーク式キャブレター |
イグニッション | コイル式 |
冷却方式 | 水冷 |
オイル循環方式 | ウェットサンプ |
最高出力 | 85hp/4500rpm |
トランスミッション | 後輪駆動 |
クラッチ | 乾式多板クラッチ |
ギア | 前進4段+後退 |
車体形状 | レーシングロードスター |
シャシー | クロスメンバー付きフレーム構造 |
---|---|
フロントサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 摩擦ディスクショックアブソーバー |
リアサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 摩擦ディスクショックアブソーバー |
ブレーキ | 機械式ドラム |
ステアリング | ウォームホイール式 |
燃料タンク容量 | 97リッター |
タイヤ(前/後) | 4.75×27 |
ホイールベース | 2745mm |
前後トレッド | 1380mm/1380mm |
全長 | 3652mm |
全幅 | 1615mm |
車重 | 920kg |
最高速度 | 145km/h |
生産台数 | 60台 |
− 6Cシリーズの“進化系” −6C 1750 Turismo (1929)
6C 1500がモータースポーツと販売の両面で成功したことを受け、アルファ ロメオの経営陣は設計主任のエンジニア、ヴィットリオ・ヤーノに6C 1500の排気量を拡大した進化モデルの開発を命じた。
そして1929年のローマ国際モーターショーで、6C 1750 ツーリズモ(Turismo)、6C 1750 スポルト、6C 1750 スーペルスポルトの3台が同時に発表された。6C 1750 シリーズは、6C 1500に比べてエンジン排気量が拡大しただけでなく、その他にも多くの変更が加えられた。3台の中でベーシックモデルにあたる6C 1750 ツーリズモは、6C 1500同様、鋳鉄ブロックの6気筒シングル・オーバーヘッド・カムシャフトを継承したが、ヘッドは新設計のものを採用した。排気量は1,752cc(ボア×ストローク:65×88mm)へと拡大され、最高出力46hp/4,000rpmを発生した。シャシーは、クロスメンバーを持つスチール製フレームを採用し、各部に補強を施すことで、6C 1750は速さだけでなく、快適性や信頼性も向上。その結果、従来モデルからの代替え需要と新たな顧客の獲得に成功した。
アルファ ロメオの経営陣は需要の拡大に対応するため、ミラノのカロッツェリア・カスターニャのデザインとなる3ヘッドライトが特徴的なエレガントなサルーン仕様をポルテッロ工場で生産した。さらにアルファ ロメオと関係の近いコーチビルダーのスタビリメンティ・ファリーナや、ほかにもガラヴィーニ、トゥーリング、ヴィオッティ、ジェームス・ヤングといった著名カロッツェリアとの協業が実現した。その結果、6C 1750シリーズは、6C 1900に代替わりする1933年までに1,131台が生産された。なお、モータースポーツシーンでは、6C 1750シリーズには高出力版の設定もあったため、ベーシックモデルの6C 1750 ツーリズモがサーキットにその姿を見せることは稀だった。
1931年4月11日、第5回ミッレ・ミリアでは、経験豊かなドライバー、カルロ・ガザビーニ&アンジェロ・ガッタが6C 1750 GTで総合8位、クローズドボディクラスで見事クラス優勝を勝ち取った。トゥーリングが手がけたウェイマン式のクローズドボディは、その車重とその複雑な構造ゆえ、耐久レースでは不利とみられたが、ハンデを感じさせない活躍ぶりを見せたのだった。
エンジン | 直列6気筒縦置き フロントエンジン |
---|---|
構造 | モノブロック 鋳鉄ヘッド |
排気量 | 1752cc |
ボア×ストローク | 65×88mm |
バルブ形式 | シングル オーバーヘッド カムシャフト |
バルブ数 | 気筒あたり2バルブ |
圧縮比 | 5.75:1 |
燃料供給方式 | ツインチョーク式キャブレター |
イグニッション | コイル式 |
冷却方式 | 水冷 |
オイル循環方式 | ウェットサンプ |
最高出力 | 55hp/4000rpm |
トランスミッション | 後輪駆動 |
クラッチ | 乾式多板クラッチ |
ギア | 前進4段+後退 |
車体形状 | サルーン |
シャシー | クロスメンバー付きスチールフレーム |
---|---|
フロントサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 フリクション ショックアブソーバー |
リアサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 フリクション ショックアブソーバー |
ブレーキ | 機械式ドラム |
ステアリング | ウォームホイール式 |
燃料タンク容量 | 57リッター |
タイヤ(前/後) | 5.25×18 |
ホイールベース | 2920mm |
前後トレッド | 1380mm/1380mm |
全長 | 3822mm |
全幅 | 1620mm |
車重 | 1150kg |
最高速度 | 125km/h |
生産台数 | 920台 |
− 幾多の栄光に包まれたロードスター −6C 1750 Super Sport(1929)
1929年にローマ国際モーターショーで発表された3台の6C 1750シリーズのうちの1台「6C 1750 スーペルスポルト」は、モータースポーツを嗜むドライバー向けに開発されたモデル。エンジンの全面的な改良により、自然吸気モデルは最高出力64hp/4,500rpmを発生。ルーツ式コンプレッサー付きモデルも用意され、こちらは出力が85hp/4,500rpmにまで引き上げられた。6C 1750 スーペルスポルトは、モータースポーツで大きな成功を収めると共に市場での人気も高く、60台が販売された。そのうち、52台がコンプレッサー付きモデルだった。エンジンの出力アップに応じてシャシーも強化され、回頭性を向上させるべくホイールベースが短縮された。
市場に投入されたモデルのほか、エンジン出力をさらに高めた6C 1750 グランスポルト テスタ フィッサというコンペティションモデルが6台製作された。そのエンジンは、鋳鉄フィックスドヘッドを備え、バルブ径を30mmに拡大すると共に、バルブ挟み角は標準仕様の90度から100度へと拡げられた。これらの改良により、エンジン最高出力は95hp/5,000rpmへと高められ、最高速度は165km/hを上回った。
発表から間もない時期に開催された1929年のミッレ・ミリアではジュセッペ・カンパーリとジュリオ・ランポーニのドライブする6C 1750 スーペルスポルトが優勝を果たし、アルファ ロメオの2連勝を達成。しかも6C 1750 スーペルスポルトは計26台が出走したなか25台が完走。トップ10に6台が入るという圧倒的な強さを見せた。しかしそれは快進撃の序章に過ぎなかった。1929年のスパ・フランコルシャン24時間レースで優勝を挙げ(ロベルト・べノイスト&アッティリオ・マリノニ組)、アイルランドGP(ボリス・イワノフスキー)とサンセバスティアン12時間レース(アキッレ・ヴァルツィ&ゴッフレード・ツェンダー組)でも立て続けに栄冠を手にした。翌1930年には再びスパ・フランコルシャン24時間レースで勝利を挙げている。さらにラバサダ&ツーリストトロフィでは、タツィオ・ヌボラーリがジェームス・ヤング作のジュラルミンボディで仕上げられたマシンを運転し、雨天のなか路面に張り付くような走りでイギリスの観客の興奮を誘った。
1930年のミッレ・ミリアを制したザガートボディの赤いロードスターが6C 1750 グランスポルトのレースにおける強さの象徴だとすれば、カロッツェリア・トゥーリングがジョゼット・ポッツォの依頼を受けて製作した白いロードスターは、アートとしての車の30年代を代表する最高傑作といえるだろう。コンコルソ・デレガンツァ・ヴィラ・デステで金賞の受賞がそのことを証明した。
エンジン | 直列6気筒縦置き フロントエンジン |
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構造 | モノブロック 鋳鉄ヘッド |
排気量 | 1752cc |
ボア×ストローク | 65×88mm |
バルブ形式 | ベベルギア・シャフトドライブ式ダブル・ オーバーヘッド・カムシャフト |
バルブ数 | 気筒あたり2バルブ |
圧縮比 | 5:1 |
燃料供給方式 | ツインチョーク式キャブレター |
イグニッション | コイル式 |
冷却方式 | 水冷 |
オイル循環方式 | ウェットサンプ |
最高出力 | 102hp/5000rpm |
トランスミッション | 後輪駆動 |
クラッチ | 乾式多板クラッチ |
ギア | 前進4段+後退 |
車体形状 | レーシングロードスター |
シャシー | クロスメンバー付きスチールフレーム |
---|---|
フロントサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 フリクション ショックアブソーバー |
リアサスペンション | リジットアクスル、半楕円リーフスプリング、 フリクション ショックアブソーバー |
ブレーキ | 機械式ドラム |
ステアリング | ウォームホイール式 |
燃料タンク容量 | 97リッター |
タイヤ(前/後) | 28×5.25 |
ホイールベース | 2745mm |
前後トレッド | 1380mm/1380mm |
全長 | 3652mm |
全幅 | 1615mm |
車重 | 840kg |
最高速度 | 170km/h |
生産台数 | 6台 |