red-dot-for-new-article2025.5.9
Share
Read More

アルファ ロメオ ジュニアを通して、CAR GRAPHIC 小野 編集長が思い至ったアルファ ロメオらしさとは

バロッコでジュニアに試乗

小野編集長2-1200x800 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

日本への上陸も間近となり、期待が集まっているアルファ ロメオの小型クロスオーバーSUV「ジュニア」の国際試乗会に参加したのは2024年の6月でした。舞台となったのは、アルファ ロメオの開発テストコースとして60年の歴史があるバロッコ。その敷地内にある、アウトデルタ時代から使われてきたサーキットとワインディングコースのふたつを、アルファ ロメオ初の電動車ラインアップの中で最も高性能なジュニア ヴェローチェで走らせてもらいました。

どちらのコースも開発中のクルマを鍛えるために作られただけあってチャレンジングなレイアウトで、クルマの素性と仕上がりが詳らかになる素晴らしいコースでした。この場所でこれまで数々のアルファロメオが磨き上げられたのかと思うと、感慨もひとしおです。

小さなアルファの復活

小野編集長3-1200x800 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

バロッコで新型ジュニアと対面して、まず思ったのは「小さいな」ということでした。そしてこのサイズ感こそが、このクルマが日本という国に特にフィットするアルファ ロメオになるのではないかと期待させる理由のひとつです。

背が高いからか、あるいは個性的なデザインが印象的だからかジュニアはやや大柄に見えますが、いわゆるBセグメントに属するコンパクトなSUVです。ここに記す数値は試乗した欧州仕様のものですので日本仕様では多少異なってくる点もあるかと思いますが、全長は4173mm、全幅は1781mm。この縦横のサイズはジュリエッタとミトの中間といったところで、トナーレと比べてもひと回り以上小さく感じます。最小回転半径は5mで小回りも効きますので、日本の住宅街などでも取り回しで苦労することはないでしょう。また、SUVゆえに全高は1505〜1539mmと高めですが、都市部での使い勝手も良さそうです。

世界的な自動車販売傾向と比べて小さいクルマが好まれる日本において、そして147や3代目ジュリエッタ、ミトを愛してきた日本のアルフィスタにとって、ジュニアは待望の“ピッコラ・アルファ”復活と言えるでしょう。

新しいクオーレ=パワートレイン

ジュニアはアルファ ロメオにとって、ただの新型車ではありません。なぜなら、115年の歴史を誇るこのブランドにとって初めての市販バッテリーEV(BEV)となるからです。

ジュニアには2種類のパワートレインが搭載され、ベースとなる4つの仕様が設定されています。ひとつ目のパワートレインは、1.2ℓ3気筒ターボの内燃エンジンに電動モーター付きトランスミッションを組み合わせたマイルドハイブリッドで、エンジンが最高136ps、モーターが最高28.5psのパワーを発揮します。このパワートレインを搭載して前輪を駆動するジュニアは、イタリア語でハイブリッドを意味する「イブリダ」を名前に加えて「ジュニア イブリダ」と呼ばれます。

小野編集長4-1200x800 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

▲アルファ ロメオ初の電動モーターの心臓部

そしてもうひとつのパワートレインが、アルファ ロメオに初めて搭載される電動モーターです。こちらは電動を意味する「エレットリカ」が名前に加えられて、標準仕様は「ジュニア エレットリカ」と呼ばれます。搭載されるモーターは156psの最高出力と260Nmの最大トルクを発揮し、前輪を駆動します。さらに、この電動ジュニアには最もパワフルなモーターを搭載した高性能仕様の「ジュニア ヴェローチェ」が設定されています。バロッコでテストしたのはまさにこのモデルで、標準モデルより100ps以上高い280psの最高出力と345Nmにもなる最大トルクを発揮して前輪を駆動します。

この2種類の新しいクオーレ(心臓)は、日本でジュニアを心待ちにしているアルフィスタにとって嬉しい悩みとなるでしょう。内燃エンジンと電動モーターがもたらすハイブリッドの多用途性をとるか、あるいは新時代のアルファ ロメオをより強く感じさせる100%電動モーターを選ぶか。ジュニアには、このクルマとどんな日々を過ごしたいかを想像して、自分に合ったパワートレインを選ぶ楽しさがあります。

ピアチェーレ・ディ・グイーダ

バロッコでは、アルファ ロメオのF1やDTMマシーンもテストをしたサーキット「アルファ ロメオ・トラック」と、ピエモンテのランゲ地方にあるワインディングロードを模した「ランゲ・トラック」というふたつのコースでジュニア ヴェローチェをテストしました。

最初に走ったのはランゲ・トラックでした。このコースはランゲ地方の丘陵地帯を模しただけあって、ただコーナーが連続するだけでなくアップダウンもあり、クルマには横Gとともに縦Gも加わります。また、一般道と同じ舗装でヒビ割れやうねりなどもあり、グリップは一定でなく、クルマの様々な挙動を確かめられる素晴らしいコースでした。そしてここで、ジュニア ヴェローチェはふたつの顔を見せてくれました。

小野編集長5-1200x801 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

▲ドライブモード スイッチなどを端正に収めたセンターコンソール(写真はエレットリカ)

ひとつはノーマル・モードでの、荒れた路面でも足をしなやかに動かし快適に走るファミリーカーとしての顔です。サスペンションが滑らかに動くことで車体そのものの姿勢変化が少なくなり、その結果として乗員は車内でシェイクされることなく、快適に過ごせます。これには車体の床下という低い場所に重いバッテリーを搭載したことによる重心の低さも良い影響を与えています。

そしてもうひとつは、ダイナミック・モードでのアルファ ロメオらしいスポーティな顔です。電動モーターの特性である大トルクでの加速と強力な回生ブレーキを使っての減速は、アクセラレーターペダルの操作だけで自由自在です。またコーナリングでは、この回生ブレーキで発生するマイナストルクを積極的に使ってクルマの姿勢と旋回を意のままにコントロールすることもできます。

この二面性を両立させているのが、新しいサスペンションと駆動系です。サスペンションでは、ダブル・ハイドローリック・ストップ式と呼ばれる減衰力が変化するダンパーが備わり、快適に走らせる部分と引き締める部分を巧く使い分けています。またヴェローチェは他のモデルより車高が低められているため、ダイナミック・モードではよりダイレクトでパワフルなドライブを楽しめます。

さらに、ジュニア ヴェローチェには280psのハイパワーと345Nmの大トルクを操るために、他の仕様には無い特別な機構が備わっています。それがリミテッド・スリップ・デフ(LSD)という機構で、日本のJTEKT(ジェイテクト)が作って供給しています。このLSDが備わることで、タイヤのグリップ状況に応じてモーターの力が適切に左右輪へと分配され、しっかりと路面を蹴って走らせられるようになります。また、回生ブレーキを活用した減速やコーナリングではこのLSDが車体を安定させる効果ももたらします。

小野編集長6-1200x800 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

このジュニア ヴェローチェ特有の走りがより明確に感じられたのが、アルファ ロメオ・トラックと呼ばれるサーキットでのテストでした。ここの路面はランゲと比べてスムースですが走る速度域が格段に上がるため、クルマのキャラクターが顕著に表出します。ここでも、ジュニア ヴェローチェはアグレッシブな走りにしっかりついてきました。全開加速からフルブレーキングしてコーナーに飛び込むときの安定感は背の高さを忘れさせますし、そこからステアリングを切ればフロントタイヤがすぐにノーズの方向を変え、そのまま自然な連続性でリアタイヤもついてきます。コーナーが連続すればジュニアも気持ちよくスラロームをこなし、破綻ない動きでドライバーを楽しませてくれます。そしてコーナー出口ではLSDがトルクを確実に路面へと伝え、一気にジュニアを加速させます。この強力な加速は電動モーターならではの味わいです。

バロッコのふたつのテストコースで試したジュニア ヴェローチェは、当初の想像を超えて、運転の楽しさに溢れたクルマでした。アルファ ロメオの走りを表現する時に使われる金言「ピアチェーレ・ディ・グイーダ」すなわちドライビングファンは、この新しいピッコラ・アルファにも備わっていました。電動であってもアルファロメオらしく仕上がったジュニア ヴェローチェに乗った後では、同じく電動の標準モデルであるエレットリカや、マイルドハイブリッドのイブリダの仕上がりにも期待が膨らみます。

ピッコラ・アルファの挑戦

ジュニア ヴェローチェは、電動で、前輪駆動の、SUVです。アルファロメオの歴史を作ってきた往年の名車のように、ツインカムエンジンで後輪を駆動するベルリネッタやベルリーナではありません。しかし、その走りのキャラクターはアルファ ロメオそのものでした。そのことをバロッコで確認した私は、帰国の機内で、かつてアルファ ロメオの設計主任をつとめたエンジニア、オラツィオ・サッタ・プリーガを思い出しながらこんなことを思っていました。「歴史は繰り返される」と。

アルファ ロメオにとって、小さなクルマを作るのはいつの時代も大きなチャレンジでした。第二次世界大戦後の1950年に発表された1900は、戦前のアルファ ロメオと比べれば排気量も小さく、エンジンも車体もコンパクトにまとめられた意欲作でしたし、その4年後にはさらに小さなセグメントに挑戦して傑作ジュリエッタを生み出しました。また1971年には、水平対向エンジンと前輪駆動に挑んでアルファスッドを作り上げ、後輪駆動でなくともアルファ ロメオらしい性能とハンドリングは作れるということを証明してみせもしました。これらのモデルは今でこそ諸手を挙げて名車と称えられていますが、作り上げた人たちにとっては大きな挑戦だったことでしょう。

こうしたチャレンジングな小型モデルの開発を率いてきたオラツィオ・サッタ・プリーガというエンジニアは、実は「アルファロメオはどうあるべきか」ということを定義した人物でもあります。彼が、自分の設計するクルマがアルファ ロメオであるために大切にしたこと。それはただ高性能なことではありません。彼はこう語っています。「移動が情熱的な意味をもち、感情が揺さぶられなければアルファ ロメオではない」と。

小野編集長7-1200x800 アルファ ロメオ ジュニア国際試乗会での日本人ジャーナリストのインプレッションを2回に渡りご紹介。第2回目:CAR GRAPHIC 小野 編集長

▲車を操る楽しさを予感させるエレットリカのインテリア

新型ジュニアは、アルファ ロメオにとって困難な挑戦だったことでしょう。パワートレインが電動化されたとしても、運転の楽しさは失わない。アルファ ロメオらしく鮮やかに走らせてみせる。これはミラノの名門のアンデンティティを、伝統を守る挑戦です。そして彼らはこのチャレンジングなジュニアの開発をやり遂げ、感情が揺さぶられる、移動が情熱的な意味をもつピッコラ・アルファを見事に作り上げました。

そう、歴史は繰り返され、またしても伝統は守られたのです。

※ジュニア エレットリカ ヴェローチェの日本導入は現在のところ未定です。ご了承ください。

Text: 小野光陽 (CAR GRAPHIC)
Photo: Stellantis

PICK UP

注目記事