※記事内の車両情報および写真は欧州仕様車のものとなります。あらかじめご了承ください。
アルファ ロメオもしくはそのブランドが、「堅実さ」で選ばれる車であると言ったら、長年のオーナーやファンは首を傾げるかもしれない。しかしイタリア・トリノのアルファ ロメオ デザインセンター ”チェントロ・スティーレ”で、チーフデザイナーのアレハンドロ・メソネロ=ロマノスと話をしていると、それが徐々に腑に落ち、確信に変わっていった。彼の背後にはローンチから3年目にして、フェイスリフトが施されたアルファ ロメオ トナーレのMHEVがあった。

口角は気持ち持ち上げながら、しかし軽く眉間に皺を寄せるような、何とも言えない表情で、アレハンドロは次のように説く。
「アルファ ロメオは、ひと言でいうなら‘’人間的なブランド‘’だと思います。今日、あらゆる自動車ブランドが’’ウチはエモーショナルなブランドだ’’と主張しています。でもそれは、エモーション(感情)を呼び覚ますという意味だけで、本来の感情とは喜怒哀楽だけではない複雑なもの。ネガティブなそれをも含みます。乗る人のそうした感情に、巧みに寄り添い続ける車がアルファ ロメオなのです」
‘’人間的‘’とは決して抽象的な表現ではなく、ローマの古代共和制やルネサンス時代を経てきたイタリアだからこそ重みのある語彙であり、アルファ ロメオというブランドのアイデンティティが、かくも多様で複雑な理由はここにある。そもそも、歴史ある自動車ブランドの個性とは何かと問えば、それをエンジニアリングやデザイン、メカニズムの正統性に求める人もいれば、ときには血統やイメージ、カルチャーに見い出す人もいる。
確かにアルファ ロメオは、創業年次ではフィアットやランチアといったトリノ勢より後発ながら、フェラーリに先立ってグランプリを席巻するなど、第二次大戦前からスーパースポーツの老舗である。一方でカロッツェリア仕立ての流麗なボディによるGTをも、多々、生み出したラグジュアリーカーの名門でもある。戦後はジュリエッタ/ジュリア系に代表されるスポーツカーそしてファミリーカーをも作り出し、実用車の系譜は33や75、アルフェッタやスッドといった大衆車にも広がっていく。これら市販車と並行して、スポーツカーやツーリングカー、プロトタイプやF1といったモータースポーツでも、足跡を刻み続けてきた。
だが重要なのは、ブランドの個性とは、創業年の古さやモータースポーツでの戦績、優れた技術や世に送り出してきた名車の数など、他ブランドとのパラメーター比較から弾き出される類のものではない、ということだ。ところが、それらが実績として、あたかもプラスアルファの何かのように積み上げられないと、人々は自動車ブランドの栄光を敏感に嗅ぎ取ることはできない。だから「スポーティでエモーショナル」と評するだけでは、逆説的ながら、アルファ ロメオのアイデンティティの根本を余さず語っているようで、じつは不十分なのだ。というのも、個性やアイデンティティというのは、人文主義的な文脈では、生来、自然に備わるものであり、そこに深いリスペクトの素がある。行為ではなく存在、能力ではなくそれを可能にする才覚が、そもそも尊いと受けとめられる感覚だ。

「今回のフロントマスクの変更は、既に精度の上がっていたレーダー検知機能を新たな規制に合わせ、歩行者衝突保護のために最適化したもの。つねに進化を求めてはいますが、それがナチュラルで正しく、変える理由が正当であることが大事です。」
トナーレのフェイスリフトが外観にもたらした最大の変化は、従来のアンダーグリル+左右両脇のスリットという意匠が、スリットまでアンダーグリルの幅が広がり、一体となったこと。だがこれは変化のための変化ではないと、アレハンドロは強調する。
「デザイナーとして規制や制限に対し、スタイル面からソリューションを提案することには何ら問題ありません。むしろシェイプを改善することで、乗り手となる顧客の経験の向上に繋がることを望みます。‘’いい車だね‘’と言われたいですから」
つまり変更のきっかけは法的な規制でも、デザイナーとして耳を傾け視線を向けているのは、車のオーナーとなる顧客の方だというのだ。アンダーグリルの上端には少し角度をつけ、衝突時のインパクトを和らげている。グリル面積が増え、結果的にフロントラジエーターへのエアの取り入れ量も増え、ラジエーターの冷却効率も上がった。さらにパラシュート効果でボンネット内に滞留するエアを、フロントホイールハウスからボディサイドへ、より綺麗に流せるようになったため、タービュランスや風切りノイズも減っているという。加えて、スクデット自体も、33ストラダーレに準じたコンケーブ状と、モノクロの新ロゴを採用し、後から登場したジュニアとの連携性をも高められている。かくしてブランドとしての一体性や物語は、保たれ続いていく。

運転支援機能の利便性は積極的に採り入れても、アクティブ・セーフティの要であり、ドライバーとの一体感を生み出す動的質感は進化させている。ホイール・デザインは、往年のホイールブランドであるテクノマグネシオを彷彿させるが、アレハンドロは単なるオマージュや懐古趣味ではないと、まるで嗜めるように述べる。
「先進的、進歩的だからと新しいものに次々と飛びつくより、昔からあるモチーフやデザインを、時代に合わせてアップデートしながら大事に使い続けることが、アルファ ロメオらしさなのです」
アルファ ロメオの創業地、ミラノは北イタリア有数の都市であることは有名だが、ファッションの街というイメージが強い。だがそれを支える繊維業や加工業、イタリア随一の金融取引場を抱えている通り、コンサバかつエスタブリッシュメントな街でもある。その古い建築やモダンな建造物に見られるように、常々なるものも、並々ならぬ華麗なものも、実現するには大胆なプランと同時に、精緻な積み重ねが要る。それをよくよく弁えた‘堅実さ’こそがミラノの土壌であり、車でそれを体現するのがアルファ ロメオだ。
デザインとはコミュニケーションで、ブランドの価値観を語るものであるからこそ、アルファ ロメオらしい表現として何を心がけているか、アレハンドロに訊ねた。

「フェイスリフトの度に、車のフロントマスクを攻撃的にしたり、内装を過剰に光らせる必要は全然ないんですよ。前期型もそうですけど、トナーレの顔つきは攻撃的ではないでしょう? もっと内面的というか、内に何かを秘めた、キャラクターが備わっています。アルファ ロメオとはそういう車で、どんな人間にも普遍的な感情を表現しているのです」
「デザイナーたちに指示するのは、まずホイールやライトの無いシェイプ、彫像としてデザインしてごらん、ということ。例えば人間のもつ雰囲気であるとか、動物が狩りをしている時に飛びかかる瞬間、あるいは座っている姿勢とか、動きやボリュームをアティチュードとして表すことです。アルファ ロメオには、ライトウェイトを感じさせるサーフェスが必要。サーフェスが軽いというのは、フラットなそれが重いのと逆で、アスリートのボディのように筋肉質で、シャドーとハイライトがある。内部で何かが起きている、何かを秘めているとはそういうこと。魂という立体的なものをどう表現するか。そこに尽きるわけです」
人間の感情の振れ幅に、日々、ピタリと寄り添うこと。あざとさや小賢しさでは得られない、イタリア流の堅実さとは、こうして造られるのだ。
| Text: | 南陽一浩 |
| Photo: | 南陽一浩、Stellantis |