2021.9.22
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サウナが脚光を浴びている。2019年頃から人気に火が付き、その勢いは未だ止まらない。もはやブームを超えてストレス発散やデトックスのひとつとして定着した感もある。そんな今、サウナ愛好家たちが絶賛し、「ぜひ一度は行ってみたい」と切望するのが、古くから湯治場として親しまれてきた、伊豆半島の湯ヶ島温泉にある、創業140年以上の老舗旅館『おちあいろう』だ。2019年のリニューアルとともに同宿に誕生したサウナは、全国のサウナをランキングする“サウナシュラン”にランクイン。サウナ愛好家垂涎のスポットとなっている。ご主人の村上昇男氏への取材をもとに『おちあいろう』、そして、そのサウナの魅力を探っていきたい。

20210909_alfa-0064 登録有形文化財の老舗旅館『おちあいろう』にサウナーが集う理由

歴史と伝統を残しつつデザインを一新、生まれ変わった『おちあいろう』

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湯ヶ島温泉『おちあいろう』の創業は1874(明治7)年にさかのぼる。(創業時の名前は『眠雲楼(みんうんろう)』)。本谷川(ほんたにがわ)と猫越川(ねっこがわ)が合流する狩野川(かのがわ)の畔に位置し、創業当時、2本の川が合流する畔に佇むことから、『眠雲楼』を定宿にしていた、旧幕臣・山岡鉄舟氏が「『落合楼』にしてはどうか」と進言。その案が採用されたという。明治から昭和にかけて島崎藤村氏、川端康成氏、梶井基次郎氏など名だたる文人墨客などが足繁く通い、賑わいを見せた。

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現在のご主人は村上昇男氏。2002年に同職に就任、2019年9月にはホテルやレストランを世界中に展開するPlan・Do・See Incの監修のもと、2019年9月、『おちあいろう』として生まれ変わった。

リニューアルに当たっては、新しいものを作るのではなく、遥か昔の落合楼がリニューアルをはかるとしたらどんな風にしただろうかと時代を遡って考えたという。
その結果、現代の建築技術を駆使し、洗練されたデザインを加えながらも、歴史ある建物の様式は最大限に生かすことに心血を注いだ。さらに、以前から課題であった水回りを一新し、客室に床暖房を整えるなど快適性も追求する。こうして完成したのが、現在の『おちあいろう』だ。事実、ゲストに配布する館内案内図は、現在の建物が建てられた当時の図面をもとに作成している。

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▲露天風呂付きの客室『浮舟』。「道路側に桜の巨木があり壮観です。桜吹雪が舞い、桜の絨毯ができる桜の散る頃がまた美しく、機会があればぜひ一度、ご覧いただきたいです」

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▲左『浮舟』室内 / 右:『浮舟』ベッドルーム

大浴場にサウナを新設したことは、このリニューアルの最大のハイライトといっていいだろう。そのサウナが脚光を浴び、今、『おちあいろう』は、サウナ愛好家、通称・サウナーたちが一度は足を運びたいと切望する宿としてその名を轟かせている。
「一度は足を運びたい? 行きたければ行けばいいじゃないか」という向きもあるだろうが、2021年9月現在、『おちあいろう』の客単価は6万円〜。多くの層にとってハードルは決して低くはない。また同宿のサウナを利用できるのは宿泊者のみとなっている。

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建築美を体感できる『文化財ツアー』で歴史に思いを馳せる

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▲文化財に登録されている「配膳室階段棟」。配膳係と宿泊客がぶつからないように、階段を交差させているそうだ。

客室は全16室。現在は14の客室が稼働している。一部の客室名は『源氏物語』の各巻から名付けられており、欄間の桐板には各巻をモチーフにしたデザインが施されている。職人が技を光る“組子細工”も素晴らしい。毎日10時と17時には、スタッフの案内のもと館内の登録有形文化財をめぐる『文化財ツアー』が開催されており、職人の卓越した伝統技術による装飾や細工を随所に残す、同宿の建築美を体感できる。

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▲客室内の組子細工

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▲湯ヶ島はもともと雨が多い地域だという。取材に訪れた日も前半は雨が音を立てて降っていたが、村上氏は、「湯ヶ島では雨の日には24色の緑が見えるとも言われているんですよ」とやわらかな微笑みをたたえる。昔ながらの歪んだガラスの向こうには、確かにいくつもの緑であふれていた。

近隣の山や海の恵みを惜しみなく使って仕立てる料理も好評だ。
「湯ヶ島は伊豆半島の中央にあり、山のものも海のものも手に入ります。一例として、噛めば噛むほど味がでる天城軍鶏はよく使っています。ジビエも美味しいですよ。朝食は地元でとれた山葵を使った、山葵ごはんがお楽しみいただけます」

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また、『おちあいろう』では宿泊費に食事代や飲み物代も含まれるオールインクルーシブ方式を採用している。(一部、有料のもあり)食事時だけでなく、ゆったりとしたラウンジにはビールやワインなどのアルコール類やソフトドリンク、ちょっとしたスナックが置かれており、好きなタイミングでいただくことができる。天城の牛乳を使ったプリンや、伊豆産のワインなど土地のものも用意されており、あれもこれもと手を出したくなること必至だ。

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▲ラウンジ

プロサウナー・松尾大氏が監修した2種類の極上サウナ

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湯ヶ島温泉のカルシウム、ナトリウム硫酸塩泉は柔らかく湯ざわりも抜群だ。肝心のサウナは、数々のサウナを手がけてきたプロサウナーで、“ととのえ親方”とも異名をとる松尾大氏に監修を依頼した。

「サウナを作ること、その監修を松尾氏に依頼することはPlan・Do・See Inc社側が決定しました。私は、当時はまったくサウナに興味がなく、聞いたときは、“へぇ、そうなんだ、でもなぜサウナなんだろう”という感じでしたね(笑)」

そう語る村上氏だが、「今ではすっかりサウナーです」と笑顔を見せる。きっかけは他でもない、リニューアルとともに、2つある大浴場のひとつ『月の湯』に誕生した『茶室サウナ』である。お客様に魅力を伝えるためにはまずは自分が体験しなければと、村上氏は、松尾氏のレクチャーのもと茶室サウナを体験するのだが、これが「鳥肌が立つような体験でした」

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「私はそれまでサウナは単に熱いだけのものだと思っていました。でも松尾氏とご一緒し、サウナに入り、水風呂に入り、外気浴をする、それがワンセットだということを初めて実感したんです。水風呂のあと体の表面の水滴をぬぐい、湿気を残したまま外気浴をしたときの産毛がチリチリと立つ感覚を体感した瞬間、サウナの虜になりました」

茶室サウナは名前のとおり茶室をイメージしたもので、「躙り口を彷彿とさせる小さな入り口から入り、ホットストーンを囲むように座っていただくのですが、ストーブが足元にあるのが特徴です」

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▲茶室サウナ

サウナに不可欠の水風呂は、リニューアル前の露天風呂を利用。その上に設けた木造の茶室サウナは池の上にある茶室にも、水上コテージのようにも見える。水風呂にはすぐそばを流れる狩野川の水を使っているそうで、「まさに、川や池に入るような感覚でお楽しみいただけます」
その川のほとりで外気浴をして“ととのう”。風流の極みだ。水風呂から見上げるサウナがまたいい。

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この茶室サウナが好評だったことから、リニューアルから半年後の2020年3月には、金山の採掘場をモチーフにして作られた洞窟風呂が人気の『天狗の湯』に『天狗サウナ』を開設する。天狗サウナは、もともとあった、岩から温泉が流れる滝をサウナ内に設けようと企画をスタートしたという。

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▲『天狗の湯』は蛍のシーズンがおすすめ。露天風呂に浸かっていると、蛍が舞い込んでくることもあるのだとか。

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「これがなかなか大変で(笑)」、試行錯誤を繰り返すも、サウナ内には温泉が流れるサウナが完成。
「温泉水でロウリュ(サウナストーンに水をかけて水蒸気を発生させること)ができるサウナはほかにはなかなかないと思います」
壁一面にはヒノキが敷き詰められており、その香りがサウナ内を満たす。足元にも温泉が流れているのも楽しい。

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▲天狗サウナの水風呂

“滞在したことを誰かに自慢したくなる”特別な場所

サウナシュランにもランクインし、『おちあいろう』の評判はサウナ愛好家の間に瞬く間に広まっていった。
「サウナを目当てに来館される方も数多くいらっしゃいます。年齢層もさまざまですし、おひとりでいらっしゃる方も少なくありません」

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そういって目を細める村上氏に、『おちあいろう』でのおすすめの過ごし方を尋ねた。

「多くの文学が生まれた湯ヶ島には、文学にも出てくる散策路がいくつもあります。まずは周辺を歩かれ、湯ヶ島の緑に癒されてみてはいかがでしょう? その後、夕食前に“ととのって”いただき、夕食後、一服していただき、またサウナへ。大浴場の入れ替え後の朝、もう一度、“ととのう”──。サウナーの方の多くは3セット9本を実践されているようですが、そのあたりはご自身のペースでお楽しみください」

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多くの文化人が愛した湯ヶ島の自然、湯、そして老舗旅館のおもてなしに抱かれながら、極上のサウナで“ととのう”。その存在を知っていること、そこに滞在したことを誰かに自慢したくなる、『おちあいろう』はそんな特別な場所だ。
今回登場したクルマ
Alfa Romeo Giulia 2.0 Turbo Veloce

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【主要諸元】
全長:4,655mm/全幅:1,865mm/全高:1,435mm/乗車定員:5名/エンジン種類:直列4気筒 マルチエア 16バルブ インタークーラー付ツインスクロールターボ/総排気量:1,995cc/使用燃料:無鉛プレミアムガソリン/最高出力:206kW(280ps)/5,250rpm[ECE]/最大トルク:400N・m(40.8kg・m)/2,250rpm [ECE]/駆動方式:後輪駆動/全国メーカー希望小売価格¥5,980,000(消費税込)※写真のカラーはオプション費用88,000円が別途かかります。

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INFORMATION

おちあいろう

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住所 静岡県伊豆市湯ケ島1887-1
TEL 0558-85-0014
URL https://www.ochiairo.co.jp/
Text: 長谷川あや
Photo: 大石隼土

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