アルファ ロメオ ジュニアの日本導入を間近に控え、そのデザイン部門と開発部門のトップの声をお届けする〈前編〉
昨年、2024年4月10日(現地時間)ミラノ。ワールドプレミアで公開されたスポーティコンパクトの新モデルが「アルファ ロメオ ジュニア」だ。同社初のフルEVモデルがラインアップされ、発表前から注目度は高かった。ミラノデザインウィーク開幕直前に披露された大胆な姿に驚きの声が集まる。当初「アルファ ロメオ ミラノ」の名で発売が予定されていたが、急遽「ジュニア」に変更された話題性も相まって、注目度は急上昇。世界中のオートモーティブファンがリリースを待ち望む事態になった。今回の記事は昨年のミラノデザインウィークにあわせて、アルファ ロメオのデザインが生まれるチェントロ・スティーレの取材に成功したものである。ジュニアの日本導入を前に、満を持してそのデザイン部門と開発部門のトップの声をお届けする。
※車に関する情報を含み、記事の内容は昨年取材時のものとなります。あらかじめご了承ください。
フルEVとハイブリッド車を日本市場に投入
20世紀後半から自動車産業で栄えたイタリア北部の都市、トリノ。中世の王宮建築や美食の都としても知られる。およそ100年前にアルファ ロメオが誕生したのはミラノだが、現在の開発拠点はトリノにある。

▲イタリア統一で中核的な役割を果たしたのがサヴォイア家。カステッロ広場に面して建つ王宮は世界遺産に指定されている

▲古い街並みが残るトリノの路地。ミラノにもましてアルファ ロメオ車が行き交う
市の中心部から郊外へ10分ほど走ると、旧フィアット工場の広大な敷地にあるステランティスの建物が見えてきた。現在、14のブランドを擁するグローバルブランド。ここは開発部門とデザイン部門が一体となって次世代のクルマを生み出す、いわば新車開発の総本山だ。

▲トリノ郊外にあるステランティスのCentro Stile(チェントロ・スティーレ)。古くから受け継がれてきた、由緒ある部門名だ。アルファ ロメオ、アバルト、フィアットおよびフィアット コマーシャル、マセラティ、ランチアのデザインを一手に手がけている
チェックポイントを過ぎて重い扉を開けると、2台の真っ赤なジュニアが配されたフォトセッション会場だ。出迎えたのは、アルファ ロメオ車の開発をプロダクト責任者として率いるダニエル・ティアゴ・グザファメ(Daniel Tiago Guzzafame)氏。ブランド中央本部は49人で構成されている。


▲MBA(経営学修士)とエンジニアリング、ダブルの修士号を持つダニエル・ティアゴ・グザファメ氏。2019年から現職
開口一番、グザファメ氏は「日本はジュリアGTA の最大の市場であり、私たちのブランドの伝統を熱狂的な多くのファンが高く評価している国」と述べ、日本の顧客を重視する姿を示した。
日本におけるジュニアのマーケットインは、2025年半ば以降。フルEV「ELETTRICA(エレットリカ)」だけでなく、ハイブリッドVGT(可変ジオメトリーターボ)搭載の「IBRIDA(イブリダ)」がラインアップに加わる予定だ。

▲伝統の「ジュニア」の名を戴くまでに紆余曲折があった
今から3年ほど前、次期BセグメントSUVプロジェクトが立ち上がった。開発コードは「Kid(キッド)」。SUV「ステルヴィオ」、コンパクトSUV「トナーレ」のラインアップを拡充させる「小さな1台」という意味である。一般投票でいったん「ミラノ」の名に決まるが、政府との見解の相違から、他の案でもあったジュニアに落ち着いた。公式なプレスリリースで「この議論によってもたらされた無料の宣伝に対し、政府に感謝します」と発したのは、なんともアルファ ロメオらしい軽やかさがある。グザファメ氏は、モデル名の変更をケガの功名ととらえる。
「ジュニアは私たちのヘリテージを物語る素晴らしい名前です。アルファ ロメオブランドへの扉となるモデルを常に体現していました。結果的に今回のジュニアも、私たちが考える新しい顧客に適しています。コンパクトでスポーティ、最高のドライビングカーを求める人々です。さらに『日常におけるレース』に使う層が含まれます。それはスーパーマーケットに行ったり、週末に子どもたちと出かけたりする人たちです」(グザファメ氏)
若々しいスピリットを持つ人に向けて
ジュニアは車幅1.78mのコンパクトさながら、鍛え上がった小型狩猟犬のごとくマッシブな存在感がある。実車を前にするとフォルムの細部に目を奪われた。デザインを主導したアレハンドロ・メソネロ=ロマノス氏に語ってもらおう。

▲アレハンドロ・メソネロ=ロマノス氏は、マドリード生まれ。英国王立美術院で自動車デザインを修めた。ルノーやセアトで数々のモデルを手掛け、独オートモティブ・ブランド・コンテストやレッド・ドットデザイン賞など受賞多数
メソネロ=ロマノス氏は、スペイン出身のアルファ ロメオ デザインチーフ兼デザインディレクター。彼のチームは 25 人ほどのメンバーがいる。2021年にルノーから移った後、23年発表の「33ストラダーレ」で本格デビューした。
デザインスタジオを意味する「チェントロ・スティーレ」という組織の特徴は、エンジニアリングとデザインが一体となって新車開発を進める体制にある。お互いのチームがすぐ隣同士にあり、風通しがいい。開発部門と意気投合して描いた顧客はこんなイメージだ。

「エモーショナルなクルマに乗りたい――退屈さがない、スポーティな乗り物を運転したい人々です。ジュニアのVeloce(ヴェローチェ)バージョンは240PS(現在はアップデートし、280PSに改良)で非常にパワフルですが、それより大事なのは機敏な操作性。必ずしもパワーだけを求める人のクルマではないのです。今日における小型プレミアムスポーティカーのドライバーを見ると、性別や年齢は関係ありませんよね。私たちが届けたい相手は、単に年齢が若いというより、『若々しい精神』を持った人たち。スマホではなくクルマに投資したい人と言えばわかりやすいでしょうか?」(メソネロ=ロマノス氏)

ジュニアの操作性について、エンジニアリング面からグザファメ氏が補足する。「当初からのアイデアは、このセグメントで最高のドライビングカーになることです。第1のポイントは、ステアリングの正確さ。ジュニアのステアリング比は『1対14』です。これはハンドルに触れた瞬間、目的の方向へ正確に移動するダイレクトステアリングを意味します。次に、サスペンションとシャシーの関係です。快適な柔らかさと十分なシャシー剛性を両立させるため、サスペンションブッシングの開発に取り組みました」

「3番目は、ボディ自体の剛性。車体のねじれ剛性は約40ヘルツで、SUVではなくドライビングカーに最適な数値になっています。最後はスピード。どこでカーブに入り、どう抜け出すか。特にヴェローチェではトーションディファレンシャルを開発し、向いた方向へ自由に進める、まるでスキーのような感覚を味わえるようにしました。こうした4要素が明確に定義されています」(グザファメ氏)
「すべてのセグメントで、よりスポーティなクルマを常に用意するのがアルファ ロメオの使命です。『ジュリア』と『ステルヴィオ』は、マーケットで非常に高いポジションにあるクルマです。『トナーレ』は私たちにとっては電気駆動という革新性を持って生まれ、今日のお客様に支持をいただきました。このセグメントの最後に小さなパッケージでより強いキャラクターを持たせたクルマを開発する。ルールをいくつか破って、新鮮な解釈を施したのがこのジュニアです」(メソネロ=ロマノス氏)

▲エネルギッシュに語るメソネロ=ロマノス氏は、初代ジュニア(ジュリアGTジュニア)が誕生した1968年生まれ。ジーンズを颯爽と履きこなしステアリングを握る姿に、年齢でカテゴライズするようなクルマの売り方を否定する説得力がある
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Text: | 神吉弘邦(ITALIANITY編集長) |
Photo: | Ken Anzai |