アルファ ロメオ ジュニアの日本導入を間近に控え、そのデザイン部門と開発部門のトップの声をお届けする〈後編〉
昨年、2024年4月10日(現地時間)ミラノ。ワールドプレミアで公開されたスポーティコンパクトの新モデルが「アルファ ロメオ ジュニア」だ。同社初のフルEVモデルがラインアップされ、発表前から注目度は高かった。ミラノデザインウィーク開幕直前に披露された大胆な姿に驚きの声が集まる。当初「アルファ ロメオ ミラノ」の名で発売が予定されていたが、急遽「ジュニア」に変更された話題性も相まって、注目度は急上昇。世界中のオートモーティブファンがリリースを待ち望む事態になった。今回の記事は昨年のミラノデザインウィークにあわせて、アルファ ロメオのデザインが生まれるチェントロ・スティーレの取材に成功したものである。ジュニアの日本導入を前に、満を持してそのデザイン部門と開発部門のトップの声をお届けする。
*車に関する情報を含み、記事の内容は昨年取材時のものとなります。あらかじめご了承ください。
イメージしたのは、筋肉質なアスリートの美
さらにメソネロ=ロマノス氏にデザインコンセプトについて聞くと、明確な答えが返ってきた。「ジュニアのデザインは、若くスポーティで筋肉質なアスリートをイメージしています。つまり『機敏で力強く、個性的だが必ずしも攻撃的ではない』というアイデアからインスピレーションを得ました」。外見だけでなく、おだやかさや優しさといった精神性にも触れるのがユニークだ。
ジュニアには、多様なデザインポイントがある。まず「直線がなく曲線をまとった筋肉質な形状」というもの。「筋肉の表現は非常に重要でした。すべてが曲線で、触ると美しい形です。デザインの95%はコンピュータで行いますが、影や形を完璧なものとするために、残りの5%はクレイモデルによる手と目の作業で調整します。ミケランジェロのようにね」(メソネロ=ロマノス氏)

次に「複数の要素を統合したテールライトクラスター」だ。ひと言で表現する呼び名が「コーダ・トロンカ(coda tronca)」、日本語で「切り取られた尻尾」という意味が与えられている。空力性能を追求したフォルムだが、結果としてとても印象的なフォルムが生まれた。

▲スパッとテールを切り落としたような表現、通称「コーダ・トロンカ」。1960年代に「ジュリアTZ」のデザインに対して用いられた言葉
「テールランプ、コーダ・トロンカ、ウィンドウ。それらが1つのデザイン要素に集約されています。私たちは街中で素敵なクルマを見かけると『このクルマはよくできているな』と思いますよね。これは、機能性と美しさが融合されたデザインに対して自然と抱く感想です」(メソネロ=ロマノス氏)

▲33ストラダーレから採用されたモノクロームのエンブレムが、ジュニアにも

▲「クアドロフォリオ」の四つ葉からデザインインスピレーションを得た4 アームホイール。洗練さにほんの少しのユーモアを散りばめる
「さらに私たちデザイナーの仕事は、道路でジュニアの後ろを走る人が『前のクルマはとても安定している』と感じてもらうことです。筋肉質でスポーティ、上質さと安定性。これらの表現が非常に重要でした」(メソネロ=ロマノス氏)

▲安定性を高めるためホイールが外側に押し出されているデザインを解説。「こんな具合に、足を開いて踏ん張っている人の姿です」
多くの人が驚かされたのは、エアインテークに設けられたた大胆なエンブレムのデザインだろう。伝統の「ビショーネ」を大きく拡大した手法について、メソネロ=ロマノス氏は「ファッションなど他の世界では、ロゴを大きく見せるやり方は一般的です。例えば、スニーカーのデザインがそうですよね」と語る。

▲ロンバルディア州都の歴史的シンボルである十字架と、ヴィスコンティ家の紋章であるビショーネ(蛇)。アルファ ロメオ伝統のデザインを再解釈して、拡大してみせた

▲Cピラーを注意して見ると、ここにもビショーネがうっすら現れる
「大きくエンブレムを掲げるデザインは、かつてのモデルでも歴史的にありました。それらに比べれば、これは小さいほう。しかし既存のルールを打ち破る、新しいグラフィックの解釈です」(メソネロ=ロマノス氏)
憧れのクルマを追いかけて
インテリアについて、グザファメ氏は「快適で居心地のいい、降りたくなくなるクルマ」を目指したという。快適性とリラックス感がキーワードだ。撮影した車両には、レザーとアルカンターラの張地が用いられていた。
「トナーレも同様でしたが、スタートボタンからギアシフターにいたるまで、手が触れる場所を再設計しました。ドライバーに向かってセンターコンソールをどのように傾ければ最適なのか。すべての要素が『手袋のようにフィットして』コントロールできる必要があります」(グザファメ氏)


▲インテリアのさまざまな場所でビショーネがアクセントになっていて、遊び心がある
フルEVでは最も気になる本体重量についても聞いた。
「1,546kgという車体は、競合他社の同セグメントよりも200kgほど軽いです。それは、通常だと上位のセグメントに使用されるリチウムイオンコンパクトバッテリーを採用したおかげです。これは同重量比で蓄電できるエネルギーも多いため、27分の充電(100kW)で410kmの航続距離があります。一般家庭で日常的に使うなら、2週間は充電せずに使えるでしょう(以上、欧州参考値)」

▲ボンネットを開けるとプラグイン充電コードが現れる。バッテリーはドライビングダイナミクスに影響する重量配分を計算して、車体全体に分散されている
インタビュー終了間際、二人にとって「アルファ ロメオはどんなブランドか」を訊ねた。メソネロ=ロマノス氏は「情熱の赤」、グザファメ氏は「夢見たクルマ」という答えだ。
「アルファ ロメオは『伝統』であると同時に『モダン』でなければなりません。60年代のアルファロメオは非常にモダンで、進歩的なブランドでした。伝統を受け継ぐ私たちも同じように、常に現代的かつ先進的であることが必要です」(メソネロ=ロマノス氏)
今後の発表計画に水を向けると、年に1モデルのペースで新車を発表していく予定だという。まずは、33ストラダーレに次ぐワンオフカーを2025年にリリース。その次は「ジュリア」だ。
「実は、この壁の向こうにデザインが完成した両方の車両があります。ちょっと見てみますか? ……いえ、さすがに冗談ですよ(笑)。その代わり、いいものをお見せしましょう」
立ち上がった数分後、ペトロールブルーの車体色のジュニアを伴ってメソネロ=ロマノス氏が戻って来た。

▲取材時点でメディアに実車初公開だった別カラーのジュニア。こちらは三つ葉のホイールを履いている


▲こちらのマスクは、さしずめバッグや高級菓子のパッケージのようなニュアンスがある。クラシカルな書体を使いながら、非常にモダンな表現だ
「私がお見せしたいのは、このアルファ ロメオです」と満面の笑みで紹介してくれたのはグザファメ氏。
「42歳の私が80年代半ば、初めて見た本物のレーシングカーがGTVです。そのときから夢の1台として思い描き続け、アルファ ロメオのクルマづくりに携わることを目標にしてきました。子ども時代から机の引き出しにしまって大事にしていたクルマを、今はオフィスのデスクに飾っているのです」

自分たちが携わるアルファ ロメオというブランドの伝統と革新性を、心から愛してやまない二人。このタッグから次々と生まれる新たなモデルの登場を想像して、胸が高鳴った。
※本文中の車両情報はイタリア本国でのジュニア発表時のものとなります。日本発売時においてはこれと異なる場合があります。
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Text: | 神吉弘邦(ITALIANITY編集長) |
Photo: | Ken Anzai |