胸よ、さわげ。アルファ ロメオ新型「ジュニア」が示す未来
プッチーニの調べに包まれた幕開け

変わり続ける街、渋谷。その中心地ともいえる渋谷ヒカリエのホールで、新型ジュニアの発表会が行われた。開場時間になると、突如として舞台が暗転し、スポットライトが男女のオペラ歌手を照らす。曲はプッチーニのオペラ「トゥーランドット」の「誰も寝てはならぬ（ネッスン・ドルマ）」だ。ネッスン・ドルマ！ネッスン・ドルマ！と響く美しい歌声は、やがてなだらかなオペラからビートを刻む艶やかな曲調へと変化し、その直後に赤いジュニアが姿を現した。

発表会が行われた6月24日は、言うまでもなくアルファ ロメオの創業記念日である。しかし、それだけではない。アルファ ロメオのルネサンスを象徴するジュリアが登場したのも、ちょうど10年前の同じ日だ。新たに生まれ変わったアレーゼのミュージアムでは、オペラ歌手アンドレア・ボチェッリが招かれ、ジュリアのアンベールを華やかに飾ったという。その時に選ばれた曲が、やはり「誰も寝てはならぬ」だった。2006年、トリノオリンピックで荒川静香さんが金メダルを獲得した際にも使用され、日本人にも馴染み深い楽曲である。

今回はその原曲をベースにしながら、アンベールの際にはリズミカルに曲調が変化し、ジュニアの登場を強く印象付けるアレンジが施されていた。作曲を手掛けたのは、映画『パリピ孔明 THE MOVIE』の音楽を担当した近谷直之氏。音で物語を紡ぎ出すその表現力が、観衆の胸に鮮烈な余韻を刻む。この粋な演出は、アバンギャルドなジュニアの世界観にとてもよく似合っていた。

アルファ ロメオに吹き込まれた新たなエネルギー

ジュリアがアルファ ロメオのルネサンスを象徴する存在だとすれば、ジュニアはそのポートフォリオに眩いほどのエネルギーを吹き込む存在だ。MiToやジュリエッタが現役を退いて以来、しばらく空白となっていたコンパクトセグメントを埋める役割を果たすことになる。これまでアルファ ロメオに興味を持ちながらも、サイズなどの問題でオーナーになることを諦めていた人たちにとっても、ジュニアは新たな選択肢となるだろう。アルファ ロメオというブランドに、新しい扉が加わったのだ。

「本日皆さまにご紹介するのは、美しさと走りを追求し続けてきたプレミアムスポーツブランド、アルファ ロメオのジュニアです。皆さまから大きな期待をいただいているこのモデルは、歴史に裏付けされたスポーティなデザインとテクノロジーをしっかりと受け継ぎながらも、コンパクトなSUVとして自信を持ってお届けできる一台です」
ステランティスジャパン代表取締役の成田仁氏はジュニアをこのように紹介し、コンパクトながらもアルファ ロメオの“情熱”が込められたクルマであることを強調した。

「胸よ、さわげ」 理屈を超えるクルマへ

続いて登壇したのは、アルファ ロメオ事業本部の黒川進一氏。
「クルマを選ぶとき、スペックや数字も大切ですが、最後に心を動かすのは理屈を超えた何かではないでしょうか。私たちがこのモデルに託したメッセージは“胸よ、さわげ”です。私たちはクルマ選びはもっと自由で、もっと感性的な体験であるべきだと信じています」と述べ、ジュニアが理屈を超えた“何か”を持つモデルであることを訴えた。

その後、本国イタリアから来日したチーフエクステリアデザイナーのボブ・ロムケス氏にバトンを渡し、ジュニアの感性に訴えかけるデザインについて、作り手の立場から紹介を行った。

「すべては、アルファ ロメオのブランドの核となる3つの柱、Rosso（赤）、Italia（イタリア）、Sportivita（スポーティさ）から始まります。これらはデザインに常に表れ、豊かな歴史や伝統も反映されています。私たちは過去のレガシーを大切にしつつ、未来への強いビジョンも持っています。また、アルファ ロメオは人間的で感情に訴えかけるブランドです。走る楽しさ、活力、自由を感じさせるジュニアは、その特性を体現するモデルです。ジュニアは若々しく俊敏で、特徴的なフロントフェイスや力強いショルダーラインが、あなたとの間に強い感情的なつながりを生み出します」

長谷川京子さんとケイ・コッツォリーノさんが語るジュニアの魅力

続いて、スペシャルゲストを招いてのトークショーが行われ、女優の長谷川京子さんと、レーシングドライバーのケイ・コッツォリーノさんが登壇した。
長谷川さんはこれまでアルファ ロメオ159セダンやビンテージのスパイダーヴェローチェを所有してきた経験を語り、一目惚れで購入したというスパイダーヴェローチェについては、「黒のボディにベージュの革シートというコントラストが気に入りました。ヴィンテージならではの唯一無二感と高揚感がありました」とアルファ ロメオの思い出を振り返った。

ケイさんは、長谷川さんのエピソードについて「アルファ ロメオを選ぶ女性はクルマが本当に好き。イタリア車は運転する人を美しく魅せてくれます」とコメント。また、自動車とは単なる移動手段ではなく、洋服のように自身の姿勢や意識を高める存在であると語った。

また、新型ジュニアの運転席に乗った印象について、長谷川さんは「最初に159やスパイダーを見たときと同じ高揚感がありました。包まれるような安心感とスポーティさ、エレガンスが共存していて素敵です」と述べた。

最後にケイさんは「ジュニアは若い人にも試してほしいクルマ。最新テクノロジーで運転しやすく、どんなステージでも楽しめるマルチな一台」と呼びかけ、長谷川さんも「アルファ ロメオは簡単じゃないけど、それがかわいくて魅力的。ぜひ一度乗って体感してほしい」と締めくくった。

ベルレッツァ・ネッサリア（必要な美）の追求

プレゼンテーションとトークショーが終わると、実車を間近で見られるフリータイム。ブレラ レッド、トルトーナ ブラック、ナヴィリ ブルーを纏う3台のジュニアは瞬く間に訪れたプレスや来場者に囲まれていた。今回のジュニアはアルファ ロメオのエントリーモデルを担うモデルだけあり親しみを感じる人が多く、さらに最新のデザインを纏うことからも幅広い人たちから注目を集めていた。

そうしたなか、先ほどスピーチを行ったボブ・ロムケス氏を捕まえることができたので、エクスリアデザインについていくつかの質問を投げかけてみた。ロムケス氏はエクステリアデザインチームを率いる立場から、33ストラダーレ以降、すべてのモデルに携わってきた人物。ちなみに現在の愛車はトナーレだという。

Q.ジュニアのデザインについて特に気に入っているところを教えてください。

「最も気に入っているのはプロポーションです。アルファ ロメオをデザインする際、最も大切なのはバランスとプロポーション。このクルマでは、非常に優れたプロポーションを実現できたと思います。路面にしっかりと座っている感じがあり、コンパクトでスポーティで、まさに私たちが目指していたものでした」

Q.サイズの小さなクルマではデザイン上の制約があったかと思います。デザインする上で苦労した部分はありますか。

「サイズが小さいから特別に難しいということはなく、どのクルマにもそれぞれのチャレンジがあります。デザインで重要なのはプロポーションとバランスで、必要以上にワイドにしたり低くしたりするのではなく、正しいバランスで快適さや乗り心地も確保することが大切です。コンパクトカーでは幅を広げすぎると機敏さが失われるため、その中でアルファ ロメオらしい運転の楽しさを実現することが大きな目標でした」

Q.空力面についてはいかがでしょうか。

「ジュニアは美しいだけでなく、空力的にも優れています。私たちのデザイン哲学は『ベルレッツァ・ネッサリア（必要な美）』です。コーダ・トロンカ（リアエンドを切り落としたテール）は空力性能を高めるためにアルファ ロメオが編み出したデザイン手法ですが、同時に美しさも表現しています。エアロダイナミクスチームと密接に協力して、完璧な空気の流れを実現しています。空気溜まりを作らないようにし、流れを妨げる不要な形状を作らないようにしています。最大の空力効果はリアで得られますが、リアゲート上部のスポイラーもコーダ・トロンカと連携して高い整流効果を生み出します。さらに下部にはスプリッターとディフューザーがあり、5ホールホイールもアルファ ロメオの象徴であると同時に空力的にも優れたものとなっています」

ジュニアが切り拓くアルファ ロメオの未来

発表会に訪れた来場者たちは、心地よく響くDJの音に耳を傾けながら、渋谷の街を見下ろすヒカリエのホールで繰り広げられるカクテルパーティを楽しんでいる様子だった。

ジュニアの発表会は、アルファ ロメオが掲げる「美しさ」「スポーティさ」「イタリアらしさ」というブランドの核を改めて示す場となった。プッチーニの荘厳なオペラから始まり、ジュニアの鮮烈な登場で幕を開けた演出は、その世界観を強く印象付けた。

ジュニアはアルファ ロメオの未来を切り拓くモデルである。若い世代や女性ドライバーなど新たな層に向けて扉を開くジュニアは、単なるコンパクトSUVではなく、ブランドに新たなエネルギーを注ぎ込む存在である。発表会で多くの来場者がそのデザインと走りへの期待に胸を躍らせたように、これからジュニアは街の風景に溶け込みながら、オーナーの感性を刺激し、日常に小さな高揚感をもたらしてくれるだろう。

動画でも、こちらからJunior発表会の模様をご覧ください。