2023.6.23
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さる2023年6月7日から20日まで、アルファ ロメオの特別展示試乗会「Unforgettable Drive」が東京・有楽町で行われた。会場では試乗参加者限定のトークイベントが開催されたが、ここでトークを担当したのは、自動車ファンにおなじみの嶋田智之氏。その豊富な取材経験、深い洞察力に裏打ちされた独自の切り口で、アルファ ロメオの魅力を広く知らしめてきた自動車ライターであり、ブランドからの信頼も厚い。また、確かな理論と幅広い知識を織り込みながら、気取らないユーモアあふれる語り口が買われて、ラジオ、動画コンテンツや自動車関連イベントでも引っ張りだこの存在でもある。今回は、このイベントの中から嶋田氏がトナーレについて語ったトークの模様をダイジェストでお届けする。ここでは目から鱗の興味深い話が続き、アルファ ロメオの奥深い魅力を改めて知る、貴重な機会となった。

「トナーレはドライバーズカー」というメッセージ

0622-shimada_001-3 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

「トナーレというクルマがどういった背景から生まれてきたものなのか?それを考えたときに、僕はそこに2つのテーマがあったと思うんです。1つ目は比較的コンパクトなSUVであるということ。これまでジュリエッタに乗ってこられたような方が、次に乗る1台となるものを開発しようという意図ですね。実際、同じSUVのステルヴィオと比べても1回りくらい小さい。皆さんが街中で乗られても、そこまで大きさを感じさせないサイズのSUVだと思います。2つ目はもちろん、カーボンニュートラルを目指すというステランティス方針のもと、アルファ ロメオ初の量産電動化車両を作ろうということですね。それでいて、これだけ個性的というか、いかにもアルファ ロメオらしいクルマを作っちゃうのがすごいですよね(笑)」

0622-shimada_002-1-1200x768 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

「このトナーレ、コンパクトなボディの中にすごく面白いものがたくさん詰まっているんです。昨年(2022年)の4月、ミラノから50kmほど北のほうにあるコモ湖という湖のほとりの街で、メディア向けの国際試乗会が開催されました。そこではじめてトナーレに乗ったんですけど、そのあたりの街は地形的には山と湖に挟まれていて、道路もすごく狭いんです。そこでは乗り慣れたステルヴィオでも走りましたけど、『ちょっと大きいなあ』と感じることが多かったんですよ。けれどステルヴィオより横幅が70mmくらい小さいトナーレだと、取り回しに苦労することなくスイスイ走れる。そういった面でもジュリエッタとの近似性を感じました。取り回しの良さは、日本で走らせるにはちょうどいいな、と思いましたね」

0622-shimada_003-1200x800 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

「ご存知の方もいらっしゃると思うんですけど、トナーレにはマイルドハイブリッドの他にプラグインハイブリッドもあることが、最初の段階でアナウンスされているんです。実際のところ、プラグインハイブリッドの技術は、ステランティス・グループの中で既に確立されているんですね。でもその試乗会で最初にお披露目されたのは、マイルドハイブリッドのトナーレだった。トナーレのマイルドハイブリッドシステムってちょっとほかと違っていて、現時点ではアルファ ロメオにしか採用されていないんです。同じステランティス傘下のブランドでも、マイルドハイブリッドのクルマはほかにもあるけど、全く仕組みが違う。つまり、新たに開発したシステムなんです。これはどういうことかというと、まずはアルファ ロメオがこちらをメインストリームだと考えてること。そして、エンジンの面白さをきちんと活かしたマイルドハイブリッドを最初に僕たちプレス関係者に乗せて発信させることで、『トナーレはドライバーズカーだよ』ということを世界に伝えたかったんだと思うんですね。とはいえ、トナーレもいまどきのクルマですから、エンジンで個性を出すのは非常に難しいと思っていました。スーパーカーの類ではなくて、エンジン開発に天井知らずのコストをかけられない、分類するなら一般的な実用車に属するクルマですから」

0622-shimada_004-1200x800 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

電動化がしっかり活きている


「その後も日本で結構な距離を試乗しましたけど、乗れば乗るほど「電動化がすごく活きているクルマなんだな」ということも一方で分かってきました。普通マイルドハイブリッドのモーターって、発進時とか低速走行時に出力を軽くアシストしたり、減速時にエネルギーを回収したり、エンジンを始動するスターター代わりの役割を果たしたりはするんですけど、基本、モーター単体で走ることってできないんです。でもトナーレは、モーターだけで走る瞬間がある。構造に特徴があって、スタータージェネレーターとは別に、エンジンとトランスミッションの間に「P 2モーター」と呼ばれる小さいモーターを挟んでるんです。それがモーターだけで駆動する役割を果たしてくれるんですよ」

0622-shimada_005-1200x800 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

「モーター単体のスペックは、最高出力20PSで最大トルクが55Nm。トルクは250ccのバイクよりちょっと大きいぐらいの数値です。ところが、ギアボックス入力値というのがあって、それだと135Nmくらいに相当する。エンジンのパワーは160PSでトルクが240Nm。その組み合わせ、ということになるわけですね。アルファ ロメオは、わざわざこのシステムを作ったんですよ。これはすごいことだな、と思いました。さっき『今どきエンジンで個性を出すのは難しい』といいましたけど、トナーレのエンジンはファイアフライ系をベースにしながらアルファ ロメオ専用にチューニング、というより設計しなおされたものといっていいエンジンで、回すのが想像以上に楽しい高回転型だし、その領域では結構歯切れのいいサウンドを聞かせてくれるし、今のエンジンとしては個性が濃厚なタイプだと思うんですよ。そういうチューニングを実現できたのは、低速域をモーターでアシストするという考え方があったからでしょうね。もちろんカーボンニュートラルに少しでも近づけようとか燃費を稼ごうとかいろいろな意図はあったんでしょうけど、たぶん真ん中にあったのはアルファ ロメオらしい気持ちいい走りなんだと思います。電動化というものに対して無条件に嫌悪感を抱いちゃう人も少なからずいるようですけど、『もうそろそろ考え方を改めたほうがいいんじゃない?』と思いますね」

0622-shimada_006 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)
▲マイルドハイブリッド仕様として、新規に開発されたトナーレのエンジン。

よく曲がるクルマになるのを運命付けられたクルマ


「すでにご試乗された方はお分かりになったと思いますけど、例えば交差点を曲がるときって、結構楽しくなかったですか? それには秘密があるんです。実は、コモ湖の試乗会で、街中を走っているときは正直『アルファ ロメオもこういう平均的な車を作るんだな』くらいの印象だったんです。ところが、郊外に出てからその印象がガラッと変わりました。これには驚かされました。イタリアの道って標識のある場所と一部の例外を除くと、速度制限が市街地では50km/hなんですけど、一般道路では90km/hなんです。僕たちの走ったワインディングロードも標識がなかったから90km/h。とても90km/hなんかで走れる道じゃなかったのに(笑)。おかげで気持ちよーく飛ばせたんですけど、すごく見通しのいいタイトなコーナーでハンドリングを試してみました。コーナー手前まで加速していって、強めにブレーキを踏んで、わずかにブレーキを残した状態でステアリングを切ったんです。その切った瞬間には、もちろん普通のクルマと較べたらクイックですけど、ジュリアやステルヴィオほどのクイックさは感じなかったんですよ」

0622-shimada_007-1200x766 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)

「ジュリアとステルヴィオは、ステアリングギア比が12:1を下回ってる超クイックな設定だから、ステアリングを切った瞬間にノーズがスパッと入るような敏感な動きが面白いし、気持ちいいんです。普通のクルマだと大体15:1とか、スポーティーといわれるクルマでも14:1を割るか割らないかくらい。一方トナーレは13.6:1なんです。普通のクルマと比べれば全然クイックなんですけど、ジュリア、ステルヴィオと比べればゆったりしている。だから、ハンドル切った瞬間というのは、そこまで鋭くないなと思ったんです。だけど、クルマって、ハンドルを切って曲がっていくときに横に傾くでしょう。それをロールというんですけど、ロールをしはじめた瞬間からフロントがギュンって前に食い込むようにして回ってくんですよ。後ろのタイヤもそれにガシッとくっついていって、何か信じられないぐらい鮮やかなコーナリングを見せてくれた。これは本当にびっくりしました」


0622-shimada_008-1200x328 『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(前編)


「クルマの旋回性能を推し量るひとつの基準になる数字で、ホイールベース・トレッド比というものがあります。ホイールベース(前後間のタイヤの距離)を前後のトレッド(左右のタイヤの距離)の平均値で割った数値なんですけど、それが1に近ければ近いほど物理的にはよく曲がる傾向にあるんです。それがジュリアでは1.73で、トナーレは1.67くらい。スポーツカーの理想とされる数値が1.62くらいと言われてるから、トナーレはより曲がりやすい物理的な特性が与えられてるってことになりますよね。そういうところからも『よく曲がるクルマになるのが運命づけられたクルマ』だといっていいでしょう」
(後編につづく)


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『トナーレは世界で一番個性的なハイブリッドカー』自動車ライター・嶋田智之氏が語るアルファ ロメオの奥深き魅力(後編)を読む


語り:嶋田智之
写真提供:Stellantisジャパン

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