2023年のF1日本グランプリが、9月22〜24日にかけて三重県の鈴鹿サーキットで行われた。アルファ ロメオ F1チームはバルテリ・ボッタス選手と周冠宇(ジョウ・グアンユー)選手のふたりのドライバーを擁して世界最高のサーキットで行なわれたグランプリに挑んだ。
アルファ ロメオは1950年からF1に参戦を開始。F1は1950年から世界選手権として創設されたシリーズであり、その初期メンバーのひとつだった。しかも最初に行なわれたレースであるイギリスGPを勝利したのは、アルファ ロメオのマシンを駆るジュゼッペ・ファリーナ。つまりアルファ ロメオは初代のF1ウイナーであり、そのファリーナがその年のチャンピオンに輝いた。
1951年限りでアルファ ロメオは一旦F1から撤退したが、1976年にブラバムにエンジンを供給する形でF1に復帰。1979年からはワークスチームとして活躍したが、85年までの参戦期間中に勝利を手にすることはできなかった。
その後2018年にはザウバーのメインスポンサーとしてF1にカムバック。2019年からはチーム名をアルファ ロメオ F1チームとしての参戦をスタートさせた。
2022年からはドライバーにボッタス選手と周選手を迎えることになった。
ボッタス選手はそれ以前はメルセデスF1チームのドライバーとして活躍し、F1で史上最多タイのチャンピオン獲得数を誇るルイス・ハミルトンのチームメイトを務めた。
また周選手は、中国人初のF1ドライバーとして、この22年にアルファ ロメオからF1デビュー。デビュー戦でいきなり入賞するという離れ業を演じた。彼の存在は、母国中国でのF1人気を高める上でも重要であると言えよう。
大観衆が集まった日本GP
2022年はF1のマシンに関するルール(テクニカルレギュレーション)が大きく変更され、勢力図が大シャッフルされた。その前年までトップチームだったメルセデスが大失速し、レッドブルとフェラーリが速さを発揮。次第にレッドブルが一歩抜け出す形となった。
アルファ ロメオ F1チームもこの勢力図シャッフルの際に躍進を遂げることになった。特にボッタス選手は予選でも上位争いに加わり、決勝でも表彰台まであと一歩まで迫る場面も少なくなかった。
結局この22年シーズンはコンストラクターズ ランキング6位。23年は一転開幕から厳しい戦いを強いられることになったが、9月に行なわれたイタリアGPではボッタス選手がカナダGP(6月)以来の入賞を果たすなど復調の兆しを見せ、日本GPを迎えた。
例年秋に開催されるのが常だった日本GPは、2024年から春開催になることが決まっている。そのため、秋にF1サウンドを楽しめるのは、一旦はこれが最後の機会ということになる。それもあってか、サーキットには平日にも関わらず金曜日から多くの観客が集まり、3日間合計で22万2000人が訪れ、1年に1回のF1サウンドに酔いしれた。
公私共にアルファ ロメオを愛するボッタス選手と周選手
そんな日本GPの開幕前、ボッタス選手と周選手がインタビューに応じてくれた。ボッタス選手は来日するやすぐに、自分の趣味であるサイクリングを楽しみ、京都の山野を駆け抜けてリフレッシュしてから鈴鹿入りした。周選手にとっては、母国中国に最も近い土地で開催されるグランプリ。ふたりともリラックスした雰囲気でインタビューに応じた。
「鈴鹿は大好きなサーキットなんだ。だからここに来ることができて嬉しい……予選やレースを戦えるのが嬉しいよ」
ボッタス選手にとって日本GPは、2019年に優勝した経験がある、験の良いグランプリである。
「前回のグランプリで新しいパーツを投入した。鈴鹿ではそれをもっと学び、最適化できるはず。2台揃って入賞することを目指すよ」
そうボッタス選手が意気込むと、周選手も次のように日本GPに向けた期待を語っていた。
「僕も2台揃ってポイント圏内に戻りたいと思っている。1回でも好調な週末があれば、ランキングの順位をかなり上げることができるからね。だからクリーンな週末を過ごすことが大切だと思っている。マシンには新しいパッケージが投入されたしね」
「鈴鹿は高速コースだから、僕らのマシンには合っていると思う。目標は全力を尽くして、レースではチャンスを活かして戦略面でもベストを尽くすことだ。チャンスはたくさんあると思っているんだ」
なおふたりのドライバーは、F1マシンだけでなく、普段もアルファ ロメオのクルマに乗っている。ボッタス選手は、特にステルヴィオを愛用しているようだ。
「現行モデルは全て乗ったと思う。そのどれもが素晴らしいね」
「モデルレンジは充実している。最新モデルのトナーレは、ハイブリッド技術を導入した最初のモデル。様々な点で優れた進化を遂げていると思う」
「個人的にはステルヴィオを愛用しているんだ。車内のスペースが広いしね。でも日常的に使うなら、トナーレも良いと思うよ」
ボッタス選手は、ジュリアGTAmも最近手にしたようだ。
「美しいクルマだよね。細かいところを見ても、至る所にレーシングのフィーリングを感じられる。ロードカーとしては本当に速いし、イタリアン・デザインの美しさが際立っている」
一方周選手は、ジュリア クアドリフォリオに乗っているようだ。
「全てのクルマに乗ったけど、自宅では今はジュリア クアドリフォリオに乗っている。色は僕の好きなグリーンなんだ。」
そう周選手は言う。
「アルファ ロメオの、特にGTAやクアドリフォリオは、公道にもサーキットにも適したクルマとして設計されていると思う。街中ではカジュアルなファミリーカーとしてリラックスしてドライブできるけど、サーキットに行ってレースモードを選ぶと、レーシーなフィーリングを与えてくれる。大きめのパドルシフトも付いているしね。フィーリングも非常に正確だ」
「一方で新しいトナーレは、よりカジュアルなクルマになっていて、家族がいる人には完璧な1台なんじゃないかな」
なお世界限定33台の超スーパーカーである33 ストラダーレにも、ふたりは試乗したという。特にボッタス選手は、33台のうち1台を購入するという。
「モンツァで少しドライブしただけだけどね。まだテストバージョンのような車両で、完成する前の段階だった」
そうボッタス選手は明かす。
「最初のデリバリーは来年末になると聞いている。僕は33人のうちの幸運なひとりとして注文することができたから、本当に楽しみだよ。とてもとても美しいクルマで、アルファ ロメオの歴史が反映された1台だと思う」
「デザインチームは、本当に素晴らしい仕事をしたと思う。今は技術的にそれを完成させようとしている段階で、時期が来ればまたテスト走行を行なう機会があるかもしれない」
周選手は、助手席に乗っただけだというが、それでも33ストラダーレには感銘を受けたという。
「僕は助手席に乗っただけだけどね。でも、本当に素晴らしいクルマだった。僕の家には1台しか停められないから、所有できないのが残念だけどね」
「このクルマは、オーナーが自分のクルマをカスタマイズすることができ、33台全てが違うクルマになる。同じマシンは2台と存在しないことになるんだ。そんなのはとても特別なことだし、他のメーカーではそんなこと絶対ないと思う」
「モンツァで乗れたのは、とても特別なことだった。アルファ ロメオの歴史を思い起こさせる、そのコンセプトも素晴らしいと思う」
アルファ ロメオにとっては厳しい戦いとなった日本GP
そんなボッタス選手と周選手にとってF1日本GPは、厳しい戦いとなった。
予選ではふたり揃ってQ1で敗退。決勝ではボッタス選手は他車に接触された影響によりリタイアを喫し、周選手は13位に終わった。
「素晴らしいスタートを切れたけど、ターン1で2台のマシンに挟まれてしまい、右フロントタイヤがパンクしてしまった。それですぐにピットインし、ノーズも交換した」
そうボッタス選手はレースを振り返る。
「レースに復帰した後、サージェント(ウイリアムズ)をアウト側からオーバーテイクしようとしたが、残念ながら彼はロックアップしてしまい、僕をコース外に押し出した。それでダメージを確認するために再びピットインしたんだけど、それ以上走るのは不可能であることが分かった」
「僕らのマシンには、好成績を収められる可能性があったはずなので、残念だ。残念ながら期待通りにはいかなかった」
周選手も、好結果を期待していたものの、うまくいかなかったと振り返る。
「とても良いスタートを切れたんだけど、前を走っていた4台のマシンが接触し、僕のフロントウイングにかなり大きなカーボンパーツの破片が刺さってしまった。そこから、マシンにダメージを与えないようにしなければいけなかった」
そう周選手は言う。
「パフォーマンスに関して言えば、今日のペースは問題なかったと思う。おそらくアルファタウリよりも速かったはずだ」
「今はトップ10のすぐ外を戦うことができると思う。そしてそれを改善していくために、努力し続けることが重要だ」
アルファ ロメオ F1チームは、現時点でコンストラクターズランキング9番手につけている。しかし、ハースやウイリアムズとの差は小さく、まだまだポジションを上げることは十分に可能だ。
今季は残り6戦。中東、そして南北アメリカ大陸での終盤の戦いが待っている。そこでどんな活躍を見せるのか、注目である。
写真提供:Stellantisジャパン株式会社
Text: | 田中健一(motorsport.com日本版) |