自動車の冒険旅行の楽しさを伝えているラ フェスタ ミッレミリア2023が、10月6日(金)から9日(月・祝)にかけて開催された。第26回目となり、インタビューした3台を含む全9台のアルファ ロメオが参加した今回も1都8県、約1,300kmを走破し、スタンプポイントや沿道で声援を送る数多くの観衆との出会いがあった。
第1回大会から掲げている基本理念を今回も継承
競技性の高さと冒険旅行的要素の強さを特徴としている『ラ フェスタ ミッレミリア』は、ひときわ特別なクラシックカーラリーだ。というのも、このところ毎月のように全国各地でクラシックカーラリーが開催されているが、ラ フェスタ ミッレミリアだけが日本で唯一FIVA(国際クラシックカー連盟)の公認を受けているからである。
ラ フェスタ ミッレミリアが国際格式ラリーとして初めて実施されたのは1997年のことで、企画・制作を手がけているFORZA S.p.A代表の増田晴男さんに伺ったら、第1回大会から掲げている「古いものに敬意を」、「いくつになっても、心・少年」、「イベントに参加する全ての人々と友情の輪を広げる」という3つの基本理念は26回目となった今大会も変わることはないと話してくれた。
全63台のオリジナルクラシックスポーツカーが集結した今回も3つの基本理念がしっかり継承されていることを確認でき、エントラントと次世代を担う子どもたちをはじめとする観衆が一緒になってひとつの物語を作り上げていくというスタイルがこれからも途切れることはないだろう。
指示通りに走らないとミスコースにつながる
オリジナルクラシックスポーツカーが走るこの手のイベントは、走行スピードを競っているのではない。2名1チームで、助手席に座ったコ・ドライバーがルートマップ(主催者が製作)を見て、そこに記された道を正確に走ってドライバーと一緒に指定された地点を巡っているのだ。
ルート上には、スタンプポイントと決められた区間を決められた秒数で走り、主催者が設定したタイムと比較してどれだけ誤差が少ないか?を競うPC競技(Prove Cronometrate:イタリア語でタイムトライアルの意)が用意されている。ラ フェスタ ミッレミリアでは主催者が指定した時刻に計測ラインを前輪で踏みながら通過し、その誤差を競うCO競技もあり、それらで獲得した得点によって順位を確定している。
PC競技においてフラットタイムを出すことはとても難しいが、ラ フェスタ ミッレミリアにエントリーしているペアは慣れているため、フラットタイムを叩き出すチームもいるのであった。ラリーによっては、主催者が設定した速度で走行するアベレージ走行競技なども実施されている。
スタート地点の明治神宮で神職が交通安全を祈願
車検会場であり、スタート地点となった明治神宮では、各車が出走する前に全エントラントが集まり、神職による交通安全祈願があった。こういう厳かな独自セレモニーがスタート前に実施される国際格式ラリーは、国内ではラ フェスタ ミッレミリアだけだ。
今回、全9台のアルファ ロメオが参加したが、SS(スプリント スペチアーレ)も含め、すべてがジュリエッタであった。午前11時に出発した63台が向かったのは福島県で、猪苗代スキー場で初日最後のPC競技が行われた。走行距離は324.9km。2日目は雨で、3つの会場でPC競技を行いつつ宮城県へ。次の山形県でもスタンプをもらい、再び福島県へ向かった。午後は大内宿などでスタンプをもらい、栃木県でゴール。417.2kmを走破。
3日目はヒーローしのいサーキットで難易度の高いPC競技に挑み、次の茨城県では大洗マリーナなどに立ち寄った。千葉県にある日本自動車大学校でのPC競技を終え、この日のゴールへ。走行距離は263.1km。最終日は千葉県内を255.6km走り、幕張ベイタウンのゴールを目指すというルート。茂原ツインサーキットで今回最後のPC競技が実施された。いくつになっても少年少女の心を持ちあわせているエントラントたちが、来年のラ フェスタ ミッレミリアにもたくさんエントリーするはずだ。
今回サポートカーとしてラ フェスタ ミッレミリアに同行した現行のアルファ ロメオは4台で、『Alfa Romeo GIULIA 2.0 TURBO VELOCE』、『Alfa Romeo STELVIO 2.0 TURBO Q4 VELOCE』、2台の『Alfa Romeo TONALE PLUG-IN HYBRID Q4 VELOCE』という内訳であった。
ルチアーノ・ヴィアロ氏と組んで初参加時に3位入賞
ここからは今回のエントラントを紹介しよう。まずは、自身の1960年式『ジュリエッタ SS(スプリント スペチアーレ)』でドライバーとして参加した嶋田衛二氏とコ・ドライバーを務めた宮本暢常氏のコンビだ。人生初のアルファ ロメオとして、走る芸術品と呼ばれるジュリエッタ SSをチョイスした嶋田氏(56歳)は、2007年からラ フェスタ ミッレミリアに出場している。
「知り合いのオイルブランド代表にラ フェスタ ミッレミリアに出たい、と相談していたら、当時のアルファ ロメオ広報部長がこのジュリエッタ SSを紹介してくれました。エントリーするときのドライバーとして推薦してくれたのが、『Museo Storico Alfa Romeo(アルファロメオ博物館)』のオフィシャルドライバーを務めていたルチアーノ・ヴィアロ氏で、彼と2007年のラ フェスタ ミッレミリアにエントリー。コ・ドライバーの私はPC競技において距離と時間を伝えるだけでしたが、なんと初参加にもかかわらず結果は3位でした。でも、ルチアーノ氏はイタリア本国で開催されているミッレミリアでも優勝し、ラ フェスタ ミッレミリアにおいてもずっと優勝してきたので唯一の3位となってしまいました……」
嶋田氏は、それ以降ドライバーとして休むことなくラ フェスタ ミッレミリアに参戦し続け、すべての回で完走しているそうだ。「今回も完走するのが目標です。五感を研ぎ澄ませ、クルマが発する音とニオイを感じながら走ってトラブルにつながらないようにします。今年は朝晩と昼間の気温差が激しいと思うので、それも要注意ですね」
嶋田氏はアルファ ロメオの魅力について、このように話してくれた。「低速トルクが無く、エンジンの回転数を5,000~6,000回転にしないと速く走れないので、イタリア人気質が色濃く反映されたスポーツカーですね。運転する側もテンションを上げて乗らないといけません。エンジンを高回転域まで回してあげるとクルマが活き活きします。63歳のアルファ ロメオが現代のクルマよりもよく曲がって、よく止まるんですからスゴイ話です。まさに人馬一体感覚を味わえます。いまのクルマはいかにも乗せられている感じですが、この時代のアルファ ロメオは間違いなくクルマと一緒に走っています。ツインキャブ仕様のエンジンは排気量が1.3Lのままです。デザインは、横から見ると宇宙船みたいで、60年以上前にこのプロポーションを作り上げたんですから驚くばかりです。その当時の日本とイタリアを比較すると、デザインセンスの差がスゴイですね。ジュリエッタ SSは空力がよすぎるので、ワイパーが風圧で浮かないように風防を付けています」
ラ フェスタ ミッレミリア2023にエントリーしたジュリエッタ SSは一台だけだったので、今回もギャラリーたちの目を楽しませたに違いない。
5台目のアルファ ロメオとしてジュリエッタを選択
さまざまなアルファ ロメオを愛用してきた成瀬健吾氏(50歳)は、15~16年前に1961年式の『ジュリエッタ スパイダー』を手に入れた。「以前、初めてのアルファ ロメオとして日本でも購入する人が多かった4ドアセダンの155を3台と、ピニンファリーナ(イタリアにある世界最大級の自動車製造工房)に在籍していたときのエンリコ・フミア氏がデザインしたGTVに乗っていました。155は排気量2Lの直列4気筒エンジンを積んだツインスパークが2台、排気量2.5LのV型6気筒エンジンを搭載しているV6が1台です。GTVは直列4気筒エンジン仕様のツインスパークや排気量3.0Lや3.2LのV6エンジンを積んでいるグレードではなく、排気量1,996ccのV型6気筒SOHCターボチャージャーエンジンを積んでいる2.0 V6 TBを所有していました」
GTVの2.0 V6 TBはマニアックな存在なので、そういうクルマに乗っていた成瀬氏は根っからのアルファ ロメオ好きなのだ。「長きにわたって愛用してきたアルファ ロメオは、自分にとって相棒ですね。もはや身体の一部だと言ってもいいかもしれません。このジュリエッタもアクセルを踏んだときに気持ちいいクルマです。特に低速域から高速域にかけてアクセルをググッと踏み込んでいったときの気持ちよさは旧き佳きアルファ ロメオならではのものだといえます。キャブレターと呼ばれる燃料供給装置の口径は、この時代のアルファ ロメオで一般的な“40”です。エンジンの回転数が5,000回転ぐらいになると、一段と気持ちよく走れます。アクセルを踏むのが楽しくなりますね。この感覚は、往時のアルファ ロメオに乗っている方であればよく分かるものだと思います」
「ラ フェスタ ミッレミリアに参戦するのは今回で15回目です。過去に2回ほどエントリーできなかったことがありましたが、そのとき以外はずっと出ています。参戦した過去すべての回で完走しているので、今回もまずノントラブルで幕張ベイタウンにゴールすることを目指します」
そのように話してくれた成瀬氏によるとラ フェスタ ミッレミリアは主催者が設定したスタンプポイントを巡り、全部の場所でスタンプをもらって、フルに押印されたシートを提出することで完走扱いになり、このタスクの中にPC競技がある仕組みなのだという。主催者が指定した時刻に前輪で計測ラインを踏みながら通過し、その誤差を競うCO競技もあり、緊急の道路工事のようなイレギュラーなことがあると運営サイドがCO競技をキャンセルにしてくれるので、安心して走れるそうだ。
「主催者がしっかりしているので、ラ フェスタ ミッレミリアは楽しいです」ともコメントしてくれた成瀬氏は、これからもレーシングスクリーンを装備しているジュリエッタでエントリーし続けるだろう。
アルファ ロメオの魅力を知り尽くした名コンビ
ラ フェスタ ミッレミリアのようなクラシックカーラリーは、基本的に2名1チームで参戦する。夫婦、男女のカップル、男性同士/女性同士のコンビなど、その形態はさまざまだ。安藤健治氏(53歳)と大野裕史氏(51歳)は年齢が近い男性同士の名コンビで、2015年から一緒に参戦しているのだという。ドライバーの安藤氏によると「ラ フェスタ ミッレミリアは2002年からスタッフとして参加し、2015年からエントラントとして楽しむようになりました。休むことなく出ており、昨年、電装系のトラブルでスタンプを2個もらえませんでしたが、ゴール地点まで行くことができました」。
スタッフとしてかかわっていたとのことなので、ラ フェスタ ミッレミリアの特徴についても伺ってみたら、このように話してくれた。「クラシックカーラリーのトップオブトップです。本国ミッレミリアのスタート/ゴール地点であったブレシアにも4回行きましたが、あの文化とコンセプトがそのまま日本に来ています。ラ フェスタ ミッレミリアは、歴史と伝統があるミッレミリアの日本版として開催されているんですね」
大野氏にも話してもらった。「仲間がサポートしてくれるので、身体が不自由でも楽しむことができます。サポートする、ということをみんなが共通認識として持っているイベントだといえます。過去にさまざまなイベントを見てきましたが、他にはなかなかないものです」
アルファ ロメオの魅力については、このように話してくれた。まずは安藤氏。「2002年から2010年まで145に乗っていました。この1957年式の『ジュリエッタ スパイダー』は2014年に買いましたが、イタリアでミッレミリアが開催されていた1957年へのこだわりで探していたら見つけたんですよ。アルファ ロメオはスポーツカーの元祖ですね。まず、その見た目がカッコイイ。エクステリアデザインを見た瞬間に、クルマ好きであれば誰もが、あっ、アルファ ロメオだと気づくわけです。そういえば、往時はロメオって呼ぶオジサンがいましたね。アルファなの?ロメオなの?と悩んだものです。アルファ ロメオは、その歴史とサーキットなどでの活躍、そして、性能や見た目など、すべてがいいといえるでしょう」。
続いて大野氏。「なんといっても、高回転域まで気持ちよく回る4気筒エンジンのキャブレター車というよさがあります。それに加えて、ピニンファリーナがデザインした美しいボディが備わっているので、本当に魅力的です。いま2.5LV6エンジン仕様の156 スポーツワゴンに乗っています。MT仕様ですよ」。アルファ ロメオの神髄を知るふたりの明るいキャラクターも、ラ フェスタ ミッレミリアが必要としている重要な要素だ。
伝統あるラ フェスタ ミッレミリアは、エントラントが冒険旅行を楽しむだけではなく、人と人との友情の輪を広げることも目的のひとつとしている。その一環として次世代を担う子どもたちにクルマの楽しさを伝えることにも尽力しているのだ。ファミリーで共通の趣味を謳歌したいと思っている方は、この機会に走る自動車博物館とも呼べるラ フェスタ ミッレミリアの神髄に触れてみるといいだろう。きっと、子どもたちのクルマに対するイメージがイイ方向に変わるはずだ。
Text: | 高桑秀典 |
Photo: | 安井宏充(weekend.)・小川亮輔 |