……ドッカァーーーン! メインスタンドに豪快な音をとどろかせ、全長1,475mのホームストレートを時速250kmオーバーで駆け抜けるアルファ ロメオの市販モデルたち。2024年6月29日、国際レーシングコース「富士スピードウェイ」(静岡県)を借り切って催されたのは、今年から始まったアルファ ロメオのオフィシャルイベントである「ALFA ROMEO TRIBE DAYS @ 富士スピードウェイ」だ。開催前から話題を呼んだ催しの全貌をお届けする。
集い、語らう。同志たちの和やかな1日
朝もやのたなびくサーキットは、前夜からの雨がようやく上がったばかりだ。早いプログラムで8時から入場が始まる公式イベントの開幕直前、スタッフが安全確認のため念入りな最終打ち合わせをしていた。
今年から初めての試みとなる公式イベントは「ドライビングアカデミー」「トライブ デイズ」「パレードラン」という3つのパートで構成されている。
トライブ(TRIBE)とは部族・仲間の意味。まさにアルファ ロメオを愛する人たちのために開催されたイベントだ。
広大な富士スピードウェイのパドック前駐車場を会場に、アルファ ロメオのオーナーやファンが集結したALFA ROMEO TRIBE DAYS 2024からご紹介しよう。
こちらには車両のブランド、モデルともに自由で参加要件はない。参加者全員がトークショーやプレゼント抽選会、オーナー同士の交流、オフィシャルグッズの買い物などが楽しめる趣向だ。
ピット内ではファン垂涎のヒストリカルモデルも集結。そのオーナー自身が愛車への想いを語った。
また、地元で人気のイタリアンやジビエ肉のバーベキュー、本格ハンバーガーなどのキッチンカーも勢揃いし、富士の恵みがもたらす味覚に多くが舌鼓を打っていた。
アットホームで距離感の近いトークを堪能
モータースポーツのレポーターで活躍する井澤エイミーさんの軽やかなMCに乗せて、自動車ジャーナリストの嶋田智之さんがさまざまなゲストを迎えるトークイベント。最初にステージトラックへ上がったゲストは俳優・モデルの大倉士門さんだ。ジュリエッタのオーナーとして知られる大倉さんは、実父が京都でアルファ ロメオの販売に携わってきたエピソードを披露した。
「自分で稼げるようになって、ある年齢に達したら父親からアルファ ロメオを購入するんだと決意していました。今ではアルファ ロメオのない自分は大倉士門じゃない!という感じです。自分の身体の一部であり、人生のパーツになっているように思えます」
▲大倉士門(しもん)さん
一昨年に結婚したのが “みちょぱ” の愛称で親しまれる同じく俳優でモデルの池田美優さん。フランクな家族の話に、アットホームな催しの距離感を感じる。「世界で一番カッコいいのは女性のアルファ乗りだと思う」と語った大倉さん。妻にもアルファ ロメオに乗ってほしく、さまざまなモデルを検討中という。
「憧れはステルヴィオのクアドリフォリオ。でも、彼女にはちょっと車体が大きめかもしれません。先日『ハイブリッドの仕上がりはどうなっているんだろう?』とトナーレに乗ってみましたが、期待をはるかに上回る走りでした」(大倉さん)
▲ステルヴィオ クアドリフォリオ 100th アニヴェルサリオなどの車両展示も。ドライビングシートを体感する来場者
「鍵を持った瞬間からアルファ ロメオの世界観に包まれるから、みちょぱさんもきっと離れられなくなりますよ」と嶋田さんが返す。「アルファ史上、トナーレは乗っていて最も楽しいクルマの1台。トナーレのシャシーをつくったのは、GTAのシャシーも手がけた人なんです」と解説した。
続けて登壇したのは、ドライビングシューズ「ネグローニ」ブランドディレクターの宮部修平さん。「一人ひとりの足に合わせた靴選び」の重要性を話した後、ネグローニ製品の7割に使用しているイタリア産の皮素材、20年変わらないソールの性能などを語った。
アルファ ロメオ111周年限定モデルは実際のプロダクトを手に解説。刺繍で施されるピショーネのこだわりについて述べた。1足の左右でピショーネの図柄を反転させることなく、どのようなバランスで刺繍を施したか。こうした細部へのこだわりが、フェイクではない本物を愛するカーオーナーの感性に響いているのかもしれない。
クルマの「声」を聞いて運転できるか
朝のウォームアップから入り、次第にスポーティドライビングの快音を響かせたのが、本格的なサーキット ドライビング プログラム「アルファロメオ ドライビングアカデミー」に参加した19台。対象はジュリア/ステルヴィオ クアドリフォリオ(限定車含む)、ジュリアGTA/GTAmのクアドリフォリオ限定のプログラムだ。
指導にあたったのは、プロのレーシングドライバーである谷口信輝氏と藤井誠暢氏の両選手。ヘルメット姿の参加者たちは、レッドゾーンまで吹け上がるエンジン音を感じながら、本来、自身のクルマが備える究極のパフォーマンスを体感できる内容だった。
アカデミー午後の部に設けられた「レーシングタクシー」(プロのドライビングパフォーマンスを助手席で体感できるプログラム)の前に、谷口選手と藤井選手がトークを行った。
アルファ ロメオの印象を聞かれた藤井選手は「ロードカーだが、乗り味はレーシングカーに近い。特にそれを感じるのがステアリングのフィーリングです」というレーサーらしい感想。同じ意見だという谷口選手は「パドルレバーが大きいので、ステアリングを切っている最中でもシフトのアップダウンができる」とアルファ ロメオ車のメリットを指摘した。
「サウンドもアルファ ロメオの大きな特徴。ダイナミックモードにするとエグゾーストノートが明らかに変わるので、そんなポイントに耳を傾けて運転を楽しんでほしいです」(藤井選手)
「クルマから、タイヤから、声が出ている。常に手や足から情報は来ているはずです。それを感じようとするかが安全な運転にとって大切。運転以外に意識が奪われていたら、タイムラグで操作が遅れます。人馬一体、手で箸を持つがごとくのドライビングが理想です。運転は楽しいものであり、クルマは便利なもの。でも一歩間違えたり、横着したりすると、危険なものにすぐ変わります」
フラットでオープンな「トライブ」たちの笑顔
イベントのクライマックスは15時にスタートしたパレードラン。ドライビングアカデミーの参加者と先着100台で申し込んだアルファ ロメオのオーナーたちが、全長4,563mのレーシングコースを巡航する。参加にあたって車両のモデルに制限はない。
最新モデルから往年の名車まで、年代やクラスが分け隔てなく参加したのが特徴だ。富士スピードウェイを走るのは初めてのオーナーも多かっただろう。少し引き締まった顔でステアリングを握り、出発の合図を待つ。
その後、にこやかに手を振りながらコースに出ていく。先導車に従って一定にスピードをセーブしながらも、公道では味わえない愛車との対話を存分に楽しんでいた。最初は緊張していた面持ちが、徐々にほどけていく。
アルファ ロメオと過ごした年月もさまざまながら、参加者に一体感がある。こうしたフラットな関係こそ、我らが「トライブ」の魅力だろう。所有モデルによるヒエラルキーなどは微塵も感じさせないオープンさが、アルファ ロメオというブランドの真骨頂と再確認したイベントだった。
Text: | 神吉弘邦(ITALIANITY編集長) |
Photo: | 望月勇輝(Weekend.) |