2024.9.27
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鮮やかな発色のボディが、おだやかな気品を漂わせて走り抜ける。信号で停車したフロントマスクは、一度見たら忘れられない――。都市のライフスタイルに適したミドルサイズSUVとして支持されるアルファ ロメオ トナーレ。そのステアリングを握るのはどんな人物でしょう。お届けするのは、映像ディレクターの井前隆一朗さんと巡る横浜の1日。音楽家の江﨑文武さんが寄せた特別メッセージとともにお楽しみください。

朝の横浜、赤レンガパーク。港からの潮風に乗って、カモメたちが空を舞っている。時おり汽笛が聞こえてくる埠頭には、深呼吸したくなる空気に満ちていた。そこへゆっくりと滑り込んできたのは、井前(いまえ)隆一朗さんの愛車、トナーレ エディツィオーネ スペチアーレだ。車体色はミザーノ ブルー。アドリア海の青から名づけられたカラーは、残暑の陽光がきらめく横浜の海にもよく似あう。

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すっきり整備されたウォーターフロントを指差しながら「このあたりに以前は母校の古いスタジオがあったんですよ」と井前さんが話す。早朝から夜中まで撮影した後、深夜に機材車で荷物の積み下ろしをしたエピソードを聞かせてもらう。当時に比べて幾分コンパクトになった機材たち。それらをポンとラゲッジスペースに積んで、井前さんはどこまでも走る。昨年はおよそ1年で2万7,000km以上を走破するペースだった。

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井前さんが映画制作を学んだのは東京藝術大学大学院。そのキャンパスが横浜にある。馬車道校舎を案内してもらった。旧富士銀行横浜支店(1929年完成)をそのまま活用した建物は、市の認定歴史的建造物に指定されている。残された大金庫に高価な撮影機材をしまって管理しているのだとか。

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街並みの統一感を失わないよう、多くの建物が大事に受け継がれているため「撮影ロケーションにも事欠きませんね」と井前さん。スクラップ・アンド・ビルドが繰り返される東京の街に暮らしていると、どうにもうらやましい。

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一方で時代の流れとともに終わる歴史もある。バブル期に開店後、大人の遊び場として絶大な人気を誇った新山下のレストラン「Tycoon(タイクーン)」。再開発のため閉店して取り壊しを待つ間、窪塚洋介さんらを主演に据えて短編映画がつくられた。タイトルは『タイクーン』(監督・脚本・編集:林田浩川、2021年)。井前さんが撮影を担当している。

「スタイル」と「乗り味」が決め手

井前さんがトナーレと出会ったのは、ある映像の制作で監督を務めたのがきっかけだ。それは、4人組ソウルバンドWONKとアルファ ロメオのコラボレーション楽曲「Passsione(パッショーネ)」のブランドムービー。実車を前にした井前さんは「とにかく存在感があるクルマ」という第一印象を抱く。

▲「ALFA ROMEO & WONK ブランドムービー “Passione”」より

カメラ越しにじっくりと見たトナーレは「ボディのライン、ボンネットの立体感、明暗のバランス。それらが素直に見えて、映像で再発見させる力がある。嫌味がなく、全体が収まっています」。特に惹きつけられたのは「横っ面の印象」だ。

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ちょうど井前さんが愛車の乗り換えを検討していた時期に、トナーレという選択肢が浮上した。映像の編集作業で詳細にデザインを吟味する機会があったとはいえ、眺めるのと乗り続けるのでは訳が違う。しかもアメリカ車、ドイツ車と乗り継いだ井前さんが所有していたのはワゴンが多かった。

実際、最初はSUVを敬遠していた。なぜなら「人気車種と言われる他社のクルマに乗って『走りがもったりしている』と感じたからです」。でも、トナーレに試乗したとき、その感覚がなかったという。

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「あくまでも自然な走りでした。車幅などの車両感覚は新たに覚える必要があったものの、車重も先代のガソリン車とほぼ同じ。サイズ感も違わない。高い車高からの視線も新鮮でしたね」

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正月には、東京から奈良の実家にトナーレで帰省した。シートの座り心地にも満足しているようだ。「普段の運転ではクルーズコントロールを使いませんが、高速や渋滞時に重宝しています。あとは物理スイッチがあるのもうれしいポイントです」。

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自動車文化への視点をクリエイターと共有する

昼の休憩に選んだのは、横浜港大さん橋国際客船ターミナル。まるで国際空港のように、海外からやって来た人々がカフェで船の出港までの時間を過ごしている。青い水面を眺めながら映像の構想を練ったり、撮影を振り返ったりする時間が井前さんは好きだ。

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井前さんは映像監督として、WONKメンバーの一人である江﨑文武さんのソロ初楽曲「薄光」のMVも手がけている。舞台となる建築の選定、その空間の使い方。楽曲の世界観を伝えるための緻密な計算が伝わる映像をYouTubeで堪能できる。

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音楽家と映像ディレクター。どのようなやり取りを経て、1つの作品が生まれるのだろうか。「江﨑さんは音の構成だけでなく、視覚的なものにもこだわりがある。まず、ロケーションや構成など、大きな枠組みが江﨑さんによりセットされます。それに対して、こちらがアプローチを返していきます」。1ヶ月ほどのやり取りを経て、いざ撮影。さらに1ヶ月あまりの編集作業を経て完成するのだという。

こうしたやり取りにならって、江﨑さんにメールインタビューを試みた。楽曲と同様、非常に丁寧な文体で返された文章をそのままお届けしたい。

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▲江﨑文武(えざき・あやたけ)/音楽家。1992年、福岡市生まれ。4歳からピアノを、7歳から作曲を学ぶ。東京藝術大学音楽学部卒業。東京大学大学院修士課程修了。WONKでキーボードを務めるほか、King Gnu,、Vaundy、米津玄師等、数多くのアーティスト作品にレコーディング、プロデュースで参加。映画『ホムンクルス』(2021)、テレビ朝日ドラマプレミアム『黄金の刻~服部金太郎物語~』の劇伴音楽も手掛けるほか、音楽レーベルの主宰、芸術教育への参加など、様々な領域を自由に横断しながら活動を続ける。

――映像ディレクターとしての井前さんをどう評価されていますか。

「実直で静けさを湛えたクリエイターだと思います。映像制作の世界はチームプレーの世界でもあり、これまでにもいろんなタイプの制作クルーを見てきましたが、井前さんとその仲間達の眼はどこか澄んでいて、いつも真摯にものづくりに取り組む姿勢が垣間見えます。井前さんの物腰柔らかで静かな人柄がこうしたチームでのものづくりを可能にしているのだろうなと思います。」

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――アルファ ロメオというブランドの印象は?

「イタリア車らしく艶やかな色気を纏い続けているという印象が一番です。ボディの美しい流線型にはしる光沢は、どこか濡れ髪の質感を思わせます。しかし、その形態は空力的な必然に従ったものでもあるのでしょう。アール・ヌーヴォーやキュビズムを乗り越えて、デュシャンやブランクーシがプロペラに魅了されていたあの時代の、工学的な美しさと芸術的な美しさの邂逅を、今も伝統として守り続けているのでしょう。」

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――江﨑さんにとってのクルマとは。

「免許を取得し運転してみて、やはりこれは身体なのだなと思いました。長い歴史の中で磨き上げられた基本操作系は、合理性だけではない、人の複雑な習性に基づいて形作られていったものなのだと感じます。それゆえ頭で深く考えることなく、身体の延長のように操ることが出来る道具に仕上がっているのでしょう。人類の歴史は移動の歴史であったことを考えると、身体を動かし移動する、というきわめて原初的な欲求を満たしてくれるものなのだなと思います。」

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自分たちの世代にとって、クルマって?

ランチをとりながら「30歳前後の世代にとってのクルマ」について、井前さんに正直な気持ちを聞いた。筆者が思うに、いまや都市生活者にとっては必須のものではなく、ステータスや速さをこれ見よがしに誇るのも以前の世代に多い価値観だろう。


井前さんはハンドルさばきもしなやかで、アクセルワークもやさしい。

「自分の運転スタイルは、お先にどうぞというタイプ。リラックスして、ストレスを感じたくない。それを最も重視しています。常用するクルマとして、パワーを含めたトナーレのパッケージングに不満は感じていません」

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とはいえ、シンガポールGPを現地で観戦したほどのF1好き。ドイツのニュルンブルクリンクへ24時間耐久レースの観戦に訪れた経験もある。


ヘッドランプ、足回り、フロントフェイス、「これは何者だ?」と思わせるボディカラー。愛車の良さを次々と挙げる井前さんだが、トナーレやアルファ ロメオを選んだ理由に「他人とは被らないから」というもっともな理由を教えてくれた。

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少し前の時代のクルマも好きだ。「自分たちの世代には、旧車がほしい人が多いと思う。格好良く乗っているカスタマイズしている人がいて、そういう姿に憧れます。ただ、気に入ったクルマを『そのままで乗る格好よさ』だってあると思うんです」。

アルファ ロメオというブランドを気に入っているのは、古びないデザインだからという。トナーレとは別に「159スポーツワゴン」の入手も選択肢にあったほどだ。

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実は井前さん、トナーレのほかにもう1台を所有している。今は工房に眠らせているが、いつかレストアして乗りたいと考えるネオクラシックカーだ。ただし、トナーレとの日常に夢中な今、そのクルマが眠りから覚めるのは当分、先のことかもしれない。

Text: 神吉弘邦(ITALIANITY編集長)
Photo: 望月勇輝(Weekend.)

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