2024.1.26
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1月10日(水)、アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏とのメディア向けのラウンドテーブルが開催された。そこでインパラート氏から語られた2023年の振り返りから今後のモデル計画について、自動車ライター・嶋田智之氏にレポートしていただいた。

アルファ ロメオは上を目指すべきだと考えている

2024年の初頭、アルファ ロメオのCEO、ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日し、メディアに向けたラウンドテーブルが行われた。そのときのインパラート氏のお話を、今回はお届けしよう。メディア側からの質問に対する回答も含め、アルファ ロメオのファンにとっては興味深い話が次々に飛び出してきたので、お楽しみいただけることと思う。まずはインパラート氏のプレゼンテーションから。

240126_ceo2024_001 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏

「私は毎年、世界の市場を巡るのに、日本からスタートすることにしています。なぜなら日本という国がとても好きですし、それだけでなく、アルファ ロメオはヨーロッパ以外でも成長していくという世界に対してのメッセージにもなるからです。皆さんの国は私のラッキーチャーム、お守りみたいなものですね(笑)。来年もまた一番にここへ戻って来られることを、今から楽しみにしています」

「まずは『33 Stradale(33 ストラダーレ)』のお話からはじめましょう。写真の1台は1960年代のモデル、もう1台は2023年9月に発表したものです。新しい33 ストラダーレは、アルファ ロメオのブランドを強く示すものとして作り、33台が7週間しないうちに完売となりました。これは私たちにとっての冒険であり、ブランドを多数抱えているステランティスのような大きなグループの中で、たった33台だけの非常に特別なクルマを作る、というのはとても素晴らしい体験でした。アルファ ロメオはそういうことができる、ということを示すことができたと思います。このクルマの1台目の納車は2024年12月の予定ですが、発表から2年たらずでこうした特別なクルマをお届けできる、ということでもあります。このプロジェクトは私たちの誇りです」

240126_ceo2024_002 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲1967年発表のTipo 33/2 ストラダーレ(左)と2023年9月に発表された33 ストラダーレ(右)

「それでは2023年の振り返りをしていきたいと思います。2023年、アルファ ロメオは7万台を販売いたしました。前年比でプラス30%です。ヨーロッパでは46%、中東・アフリカ地域では74%、アジアでは7%、前年比からのプラスです。トナーレを2023年の下期にローンチしたからです。アルファ ロメオは、ステランティスの中でも特に収益を伸ばしたブランドです。収益が生まれないブランドから非常に収益性の高いブランドになりました。2021年に私たちの計画をお話しましたが、それがいかに精度高く実行できたか、ということですね」

「2021年には、いくつか皆様にお伝えしたことがありました。まずは、品質を絶対に良くしていくということ。年に1台は地域ごとに新しいローンチを行うこと。そして電動化を迅速に進めていくこと。

品質に関しては、2022年の11月にJDパワー(顧客満足や製品品質、消費者行動等を専門的に調査をしているコンサルティング機関)の北米における初期品質調査の評価で1位を取りました。私たちの自己評価ではなく、権威のある第三者機関による評価です。私は1970年代にジュリアを持っていたような人間なので(笑)、ここまで来たことは本当に嬉しいですね。日本においてもワランティ(保証)に関して特に大きな問題がないことも確認しています。現状は良いところにあるといえるでしょう。

ローンチに関しては、皆さんも御存知のとおり、2023年にはトナーレをデビューさせました。運転していて本当に楽しいコンパクトSUV。自信作です。世界的に部品不足がありまして、私たちに限らず自動車業界全体が苦しみましたが、工場への供給はなんとかキープすることができました」

240126_ceo2024_003 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲トナーレ プラグインハイブリッド Q4

「そしてこの2024年、私たちは『Milano(ミラノ)』を発表します。トナーレよりコンパクトなモデルで、主としてミトやジュリエッタにお乗りになっている方々へのオファーとなるでしょう。6月にバロッコで公表して、2024年第4四半期に発売します。アルファ ロメオ史上初のバッテリーEV、そしてグローバルでは、マイルドハイブリッドも展開予定で、アルファ ロメオらしくハンドリングを楽しんでいただけるクルマになります。期待していてください」

240126_ceo2024_004 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲2023年12月にプレスリリースで公開されたMilanoのイメージビジュアル

「電動化についてはトナーレでマイルドハイブリッドとプラグインハイブリッドをかたちにして、ミラノでバッテリーEVが登場します。3年前には電動化モデルがゼロだったわけですから、電動化はスピーディに進んでいるといっていいでしょう」

「そして2025年には、DセグメントのバッテリーEVのモデルをローンチします。出力は250kW(340ps)から700kW(1020ps)で、ハンドリングも高いレベルにあり、短時間で充電が完了します。非常に面白いクルマになると思いますよ。

2026年には、同じくDセグメントのモデルのローンチを予定しています。ジュリア、ステルヴィオも次の世代のものを作っていく必要がありますからね。具体的なことはまだお話できませんが、2025年、2026年には新型のジュリア、ステルヴィオが登場する、ということです。それはステラ・ラージ・プラットフォームに電動アーキテクチャであるステラブレインを搭載します。

つまり私たちが前回お約束したところから5年以内に、全く新しい電動アーキテクチャを開発して送り出せる、ということになりますね」

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「ここまで申し上げたクルマというのは計画のライン上にあって、開発が進んでいるものです。そして、2027年にはもっと上に行きたいと考えています。アルファ ロメオは上を目指すべきだと考えているのです。まだ時期尚早ですので細かくはお話しできないのですが、パフォーマンスをもっと上げていくということを念頭に掲げたプロジェクトです。おそらくEセグメントになるでしょう。イタリア以外、ヨーロッパ以外で販売することを考えると、アメリカ、中国、そして日本もそうですけど、Eセグメントのモデルが必要だと考えるからです。

現在はそのような計画がありますが、2028年以降についてはまた来年お話しましょう。アルフェッタやデュエットといった名前に考えを巡らせて計画を作りたい、と考えてはいます。今のところ何かコミットできるものでもないのですが(笑)」

240126_ceo2024_006 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲1966年発表のスパイダー デュエット

私の一番のミッションは、まずブランドを守ること

あまりにもあっさり今後のモデル計画などが明かされたことに驚いたが、いうまでもなくそれは嬉しい驚き。そしてそれは、続いて行われたQ&Aセッションでも繰り返されることとなった。

―33 ストラダーレでICE(エンジン)を選んだ人とバッテリーEVを選んだ人の比率を教えてください

「ICEが80%、バッテリーEVが10%で、まだ10%の方がどちらにするか悩まれているところです。最初はバッテリーEVでオーダーされて後からICEに変更された方も、その逆の方もいらっしゃいます。バッテリーEV仕様をオーダーした中に中東・アフリカ地域のEVを買う必要がない国の方がいらっしゃるのですが、彼としては先駆者でありたい、これから電動化が進むなら自分はそれを買う、という意図を強く持ってオーダーなさいました。33 ストラダーレのオーダーについては、規制がどうということじゃなく、皆さん、完全に個人の好みで決められていると思います。ICEに関しては、現在、音作りに取り組んでいます。音の周波数のデザインをチームとともに綿密にやっているところなんです。3月ぐらいにはできあがると思いますよ」

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─今後も33 ストラダーレみたいなスペシャルモデルを作っていく計画はありますか?

「2024年12月17日に、33 ストラダーレの1台目を納車することになるんですが、そのときに次をどうしようかというのを決める予定です。33 ストラダーレをオーダーされたお客様と私たち(アルファ ロメオの上級スタッフ)は33 ストラダーレクラブというクラブのメンバーになっているんですけど、クラブのメンバーの皆さんと一緒に決断していきます。ちなみに今、スペシャルモデルのウェイティングリストには50名ほどのお客様がいますし、クラブのメンバーの中からぜひ次も、というリクエストが入ってきていたりはするのですが、次のチャプターをやるのがいいのかどうか、何台ローンチするべきなのか、クラブの皆さんにクラブとして決めていただく必要があると考えています。もし次をやるのであれば、2027年のローンチになるでしょう。

今、スーパーカーというのが本当にたくさんある世の中ですけれど、必ずしも信頼性があったり高品質だったりはしないというのは皆さんも御存知のとおりです。ですから、そこをきっちりとやり遂げてからでないと、次には移れない。そう考えています。6C、デュエット、ディスコ ヴォランテ……いろいろなアイデアがあるのですけどね。今は収益を上げられているので、穏やかにいろいろなことを考えられるようになりました。肩にかかる重さが随分楽になって、安心していろいろな事業に取り組めていると実感しています」

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▲1952年発表の1900 C52ディスコ ヴォランテ

──欧州委員会が2035年以降の新車販売はバッテリーEVのみというのを訂正して、e-FUEL(二酸化炭素(CO2)と水素(H2)を原材料として製造する合成燃料)を使う内燃機関を認める方向に舵を切りました。事実上、ICEもOKということですよね。それでもアルファ ロメオは、これからもEVメーカーを目指していくのですか?

「戦略は一朝一夕で変えたくはないし、できるだけ一貫した姿勢で進めたいというのはありますが、けれど状況によって調整していく必要はあるかもしれませんね。ただし、ゼロエミッションという目標は変えません。必ず追求していきます。

2025年から適用されるユーロ7では、新世代のICEを出すことがほとんど許されていないようなものです。そしてe-FUELはいくつかの限られた機種に関してはいいオプションになると思いますが、それだけでマスマーケットでの解決策となるものではないと考えています。まず、ゼロエミッション。それが達成できるのであればICEも選択肢になると思いますが、可能性は低いでしょう。

これから法規制がどう変わっていくか、私にもわかりません。ユーロ7の規制が今後どう変わっていくかもわかりません。そして、それぞれの国においてどれだけカーボンニュートラルに舵を切っていくか、そのペースの違いも予測できません。今の段階で明白なのは、バッテリーEVが最適解に近いということだけです。

日本のアルファ ロメオのファンの方々には、ICEがお好きな方が多いと思います。私たちが作るクルマはどうしても好き嫌いで決まることが多いですよね。そういった意味では、電動化がお客様の自由度を制限してしまうところはあります。けれど、自動車メーカーは自分たちの好き勝手にクルマを作れるわけじゃないんです。私たちとしては、ブランドとしての特色をキープすることも、ブランドとしてのサステナビリティも、どちらも重要です。でもそのバランスは、今、とてもむずかしい。両立できる方法があるのであれば、もちろんそちらに進みます。けれど、それが可能でないのであれば、私はこのブランドを存続させていく方を選びます。私の一番のミッションは、まずブランドを守ること、なんです。それでもお客様には自分が心から欲しいと思えるクルマを買っていただきたい。ですから、それに見合うようなクルマを作っていくつもりですよ」

──インパラート氏が考えておられる、今後のアルファ ロメオのブランドとしてのポジションをお話しいただけますか。

「ジュリアとステルヴィオの次世代のモデルは、全輪駆動バージョンになります。そして出力は954馬力。1,000馬力オーバーまで持っていこうとプッシュしているんですけど、今のところは954馬力です。けれど、一番重要なのは出力ではなくて、やはり運転したときのフィーリングですよね。そこがセンセーショナルであるべき。もちろん次世代のジュリアもステルヴィオも、現在のジュリアとステルヴィオのような素晴らしい感覚をもたらすものになりますよ。それぞれにクアドリフォリオを御用意するつもりですし、真のハイパフォーマンスカーになっていくと思います。ただし、充電に2時間もかかるようなクルマを作りたくないとも考えていて、80%の充電は18分でできるようになります。

240126_ceo2024_009 アルファ ロメオ CEO ジャン=フィリップ・インパラート氏が来日 2027年までのモデル計画とその展望とは?

▲ジュリア/ステルヴィオ クアドリフォリオの現行モデル

アルファ ロメオは、グローバルプレミアムブランドとして、ステランティスを代表することになります。もちろんマセラティとは違います。マセラティはラグジュアリーブランドであり、アルファ ロメオとは別のところにいますし、市場でのポジションも異なります。マセラティはステランティスが抱える唯一のラクジュアリーブランドです。そしてアルファ ロメオは『Rosso(赤い)』、『Italian(イタリアの)』、『Sportiness(スポーティな)』なブランドです。だからミラノのローンチもおそらく赤になるでしょうね。イタリアからのインスピレーションを発信する、ラグジュアリーではなくスポーティなブランドというのを体現したい。

アルファロメオの立ち位置は、マセラッティよりもランチアに近いと思います。ですので、ランチアの担当とも、今、コミュニケーションをとっています。ランチアもアルファ ロメオもスポーツ大好きで、似ているところはあるかもしれないですけど、いろいろ差別化に取り組んでいきますよ。なので、運転しても得られる感覚は同じではない。間違いなくそうなっていきます」

──2023年いっぱいでF1グランプリへの参戦が終了しましたが、ほかのレースへの参戦の計画はありますか?

「ザウバーとアルファ ロメオというのはまさにファミリーだったので、非常にエモーショナルな状況でした。さよならパーティみたいなイベントを開催してくれたんですが、寂しかったですね。ただ、それが人生です。ザウバーとのビジネスモデルというのは、アルファ ロメオにとっては本当に素晴らしいチャンスを生みだせた関係性だったので、同じようなことを次にすぐ簡単にできるというものでもありません。F1を続けられないものか最後まで動き続けたんですけれど、最終的には御存知の結果になりました。

けれど、モータースポーツは続けたいと考えています。候補のひとつは耐久レース。WEC、ル・マンです。でも、今のところ、適切な予算でなおかつ勝てる体制というのが見つけられていません。収益が生まれないブランドから収益性の高いブランドに生まれ変わったのに、負債を抱えるわけにはいきません。理にかなっている予算で勝てる体制を作り、続けていく必要があると思っています。世界的にも情勢がいろいろ変わっているので、事業の健全性、会計上の健全性というのを、やはり一番に考えています。」

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時間にしておよそ1時間。終始笑顔を絶やさなかったインパラート氏だったが、彼の語るアルファ ロメオの未来の姿がすんなりと想像できて、それが喜びを感じさせてくれた。アルファ ロメオは、そういうブランドでなくちゃ! と心から思うのだ。まずは、6月に正式デビューするミラノに期待大、である。

Text: 嶋田智之
Photo: Stellantisジャパン(提供)

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