2024.5.16
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ALFA ROMEO 33 STRADALE

昨今、多くのメーカーがハイパーカーを手がける。レストモッド、名車の復活やオマージュも盛んなら、クラシックカーの世界もかつてないほど賑わっている。自動車の楽しみ方が多様化する時代に足並みを揃えるかのように、アルファ ロメオが超高価格少量生産車、「フューオフ」の世界に回帰した。

発案者はインパラートCEO。社長自らアイデアを出した。多くのブランドを抱えるステランティスのなかでアルファ ロメオに強い個性を与えることが狙いという。第一弾としてスポーツカーのアイコン、ティーポ33 ストラダーレの現代版が選ばれ、車名は簡潔に33 ストラダーレとされた。アルファ ロメオ史のなかで最後のフューオフと位置付けられているのは1967年にデビューしたティーポ33 ストラダーレだから、この点で極めて自然な選択と言えそうだが、車両内容も去ることながら、興味深いのは今回のプロジェクトでは進め方に他社とは一線を画すアルファらしさが見られること。イタリア人の心の故郷としてみんなで楽しむクルマ、この立ち位置が感じられる。

240516_poltrona_frau_001 33 ストラダーレのエレガンスを叶える 高級レザー「ポルトローナ・フラウ」

“らしさ”のひとつは車両完成までの流れを公開したことだろう。顧客は「ボッテガ」でデザイナーのアドバイスを受けながら外装、内装の詳細を決め、それが社内の専門家からなる「33コミタート」に回される。ここで承認を受けるといよいよ生産過程に入るという流れ。おそらくこういう進め方はフューオフの製作では一般的と推測するものの、公式発表したメーカーはないように思う。何より名前をつけるところがいかにもアルファ的、イタリアっぽい。ボッテガは工房とかアトリエを意味するが、年季の入った職人がコツコツ仕事をするイメージ。一方、コミタートは委員会、専門家の集まりみたいな感じだ。固い印象を与える言葉。ボッテガとコミタートという対照的な組み合わせが面白い。実際のところ、言語化することでイメージを膨らませ、雰囲気や意図を伝えやすくするのは同社の特徴のひとつだ。タイムライン、スピード、ビューティーと区分けしたミュージアム展示にも、「必然の美」(la bellezza necessaria)という同社独特のデザイン用語もその例と言える。実際のところ、百年を超す長い歴史を持つ同社のラインナップをどう見たらいいのかと迷うとき、ミュージアムが提案する3つの分け方は指針となるし、必要な美と聞くと装飾や過剰を排除し機能と融合させた美しさが浮かぶ。

生産台数は車名にちなんで33台。プロジェクト責任者によれば唯一、当初の見込みを外れたのは33を大幅に超える申し込みがあったことだそうだ。投機や転売目的の排除、収集ではなく走ることを前提とした購入、同社車両に対するスタンスなど細かな基準にそって選抜が行われ、「すべてのアルフィスタが納得できる33人のオーナーが決定した」。責任者によればその延長線上にあるのがオーナーの顔出しという。

メーカーサイドがオーナーを公開する、これはフューオフの世界では間違いなく初めての試みだ。超高額商品なだけにメーカーは購買者をトップシークレットとするのが一般的にもかかわらず、アルファはこの”タブー”を破った。そのココロは?

「プロジェクトの透明度を高める狙いもありましたが、基本的にはもっとシンプルなことです。アルファはみんなで楽しむ自動車。アルフィスタにとってキミの幸せはボクの幸せなんです。だからオーナーを公開したんです」。それからこう続けた。「他社と同じことをする必要はないでしょ。それでは新しいことをする意味がない」。とはプロジェクト責任者、クリスティアーノ・フィオリオ氏の言葉。確かに。

240516_poltrona_frau_002 33 ストラダーレのエレガンスを叶える 高級レザー「ポルトローナ・フラウ」

▲クリスティアーノ・フィオリオ氏

オーナー紹介はソーシャルメディアを介して同社制作の動画で配信されたが、欧州を中心にいくつかのメディアにはカスタマイズに立ち合う機会も用意された。前述の「ボッテガ」の様子を公開したのである。これまた非常に珍しい試みだ。パーソナライズの流れはまず外観、ボディカラーやキャリパーの色を決定するところからスタート。陽光が鍵を握ることもあって外観の色の調整には難しさはあるものの、デザイナーによればボディカラーについては迷うオーナーは少ないそうだ。「難しいのは素材選択や組み合わせが豊富な内装です。個人の嗜好を強く反映できる部分ですね」。

自動車デザイナーはエクステリア、インテリア、CMF(Color Material Finish)の3種に分けられるが、近年、作業の重要度が高まっているのが色、素材、フィニッシュと呼ばれる作り込みや質感を決めるCMFデザイナーの受け持つ作業だ。かつては分業だったが、素材の色や写り込み、反射による印象の変化、素材のもたらす質感など、3つは強く結びついていることから統合された。21世紀に入ってからだろうか、ユーザーの内装へのこだわりが非常に強くなった。サステナブルや環境への配慮の観点から素材や製作方法への関心が高まっていることもある。現在、非常に注目されているのがCMFの手がける分野なのだ。今回、33 ストラダーレの内装セレクトを用意したのももちろんCMFデザイナーである。

33 ストラダーレのキャラクターはスポーティネス、ここに疑いはないが、同時にもちろん高級感も欠かせない。イタリア式にエレガンスと言い換えることもできるだろう。スポーティネスとエレガンスの共存を叶える立役者は、組み合わせやデザイン以前にまず素材だそうで、この点からレザーにはポルトローナ・フラウのそれが採用された。ポルトローナ・フラウは1912年にトリノで生まれた家具メーカー。上質な革を使った肘掛け椅子(ポルトローナ)が評判を呼び、今では高級レザーの代名詞となっている。

ポルトローナ・フラウ。最高級の革を纏い、彫刻のように優美なデザインの家具は、まさにイタリアの“家具芸術”。

自動車の内装に使われるようになったのは80年代後半のこと、アルファ ロメオ車両では8Cに採用されたと記憶する。今回は実際に触れることができるよう見本が用意されたが、その感触はいつまでも触っていたくなるような柔らかく滑らかなもので、色みについては奥行きがある印象を持った。高級というのはこういうものを指す言葉なのだと思わずにはいられなかった。33 ストラダーレでは同社初の試みとしては内に収まるバッグも作られたが、これも革はポルトローナ・フラウのもの。

240516_poltrona_frau_003 33 ストラダーレのエレガンスを叶える 高級レザー「ポルトローナ・フラウ」

自動車の内装に使われるようになったのは80年代後半のこと、アルファ ロメオ車両では8Cに採用されたと記憶する。今回は実際に触れることができるよう見本が用意されたが、その感触はいつまでも触っていたくなるような柔らかく滑らかなもので、色みについては奥行きがある印象を持った。高級というのはこういうものを指す言葉なのだと思わずにはいられなかった。33 ストラダーレでは同社初の試みとしては内に収まるバッグも作られたが、これも革はポルトローナ・フラウのもの。

カタチづくりはアルファ ロメオのデザイナーが手がけた。

240516_poltrona_frau_004 33 ストラダーレのエレガンスを叶える 高級レザー「ポルトローナ・フラウ」

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カスタマイズの現場公開という珍しい試みの意図はオーナーがどんな気持ちでどんなふうにどんなクルマを仕立て上げて行くのか、この世に1台の自動車誕生シーンに立ち合うことだが、立ち合ったことでスポーティネスとエレガンスを血と肉とする33 ストラダーレの姿がはっきり見えたように思う。見えたのは精悍で優雅、未来的だが心温まる快適な空間を備えたスポーツカー。過去と現在を繋げ、未来への橋渡しをするアルファ ロメオの新星である。

ALFA ROMEO 33 STRADALE

Text: 松本葉
Photo: アルファ ロメオ

Profile

松本 葉(まつもと・よう)

自動車雑誌「NAVI」の編集者、カーグラフィックTVのキャスターを経て1990年、トリノに渡り、その後2000年より南仏在住。自動車雑誌を中心に執筆を続ける。著書に、「愛しのティーナ」(新潮社)、「踊るイタリア語 喋るイタリア人」(NHK出版)、「どこにいたってフツウの生活」(二玄社)、「私のトリノ物語」(カーグラフィック社)ほか、「フェラーリエンサイクロペディア」(二玄社)など翻訳を行う。

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