NEW GIULIA / STELVIO VELOCE SUPERIORE:NEGRONI レーシングストライプウォレット
誕生は2000年。「ネグローニ」は、世界的に評価が高い“メイド・イン・ジャパン”のドライビングシューズとレザーグッズブランドだ。高い技術と確かな素材がもたらすクオリティ、機能美と日常性を兼ね備えたデザイン性に定評があり、グローバルにカスタマーを持っている。アルファ ロメオとの第2弾コラボレーション製品をデザインしたばかりのブランドディレクター宮部修平氏を「ネグローニファクトリー トーキョー」に訪ねた。
ドライビング性を向上させるシューズが評判に
オンラインで既製品を手軽にショッピングできる時代にあって、完成まで1カ月から2カ月半を要するセミオーダー式で販売(ただし在庫がある商品は、サイズ確認から約1週間で納品可能)するこだわりのドライビングシューズ。さらに「よりフィットする靴をお探しなら、私たちのもとに一度足を運んでいただきたい」とネグローニの宮部修平ディレクターは言う。
首都高向島線を堤通インターで降りて5分。荒川区南千住にある工房兼ショールーム「ネグローニファクトリー トーキョー」までクルマを走らせた。
2Fにあるショールームへ上がる前に、1F工房で靴づくりの現場を見学した。最初に目に飛び込むのは、色とりどりの革。これを立体の靴に仕上げる。1日の終わりに靴ができ上がるような流れで、作業を進める靴職人たち。裁断や縫製、ソールの圧着、仕上げといった各工程を同じ職人がこなせる練度の高さが、ネグローニのクオリティを担保している。
木型からつくるフルオーダーではない製品において、どうしてカスタマーの足をみる必要があるのだろう。実は、多くの人が「実際の自分の足に合ったサイズ」を間違ったまま靴選びをしている現状がある、と宮部氏は言う。
ドライビングシューズのようなプロダクトで、爪先に余分な空間が生じたり、甲が締め付けられるような感覚があったりしたら、安全性にもかかわる。
そこでファクトリーでは、カスタマーの足の形状からサイズ調整を図るほか、その人のドライビングスタイルに最適なプロダクトを提案することもある。遠方でファクトリーを訪問できないカスタマーに対しては、サービススタッフが図式化したサイズガイドやフローチャートが用意されている。
ひと口に「ドライビングシューズ」と言っても種類はさまざまだ。ネグローニには、フォーミュラカーのドライバーが着用するような極薄のスキンで覆われるモデルもあれば、街で見かけるスニーカーや革靴と変わらない見た目の商品もある。
既存の靴と異なるポイントは、主に3つだ。
まずは「ソールの薄さ」。クルマとダイレクトにつながるドライブフィーリングを感じるには、ペダルと自分の足の間にあるソールは薄いほどいい。そうかと言って耐久性がなければ商品の寿命が短くなるため、独自の工夫をこらしている。
次に「ソールの丸さ」がある。ペダリングは縦方向でなく、横方向あるいは斜め方向に足を運ぶことがある。踵を軸にしてクイックに足運びができることも重要だ。このような特殊な動きを考慮して、少しトゥの部分がせり上がった形状になっている。
最後に「サイドガード」の有無。これはあるモデル、ないモデルがあるが、車室のどこかに足をぶつけてもドライバーにダメージを与えないことがサイドガードの役目。意匠性だけでなく、よりテクニカルなドライビングをする際には頼もしい。
ブランドの背景には3代にわたる物語があった
ネグローニのエンブレムには2つの年号が掲げられている。
1969年。これは宮部ディレクターの祖父・光吉氏と、父・修一氏が親子で紳士靴メーカーを創業した年だ。70年代から80年代は高度経済成長の波に乗り、大量生産した靴が飛ぶように売れたという。
日本経済にかげりが見えた90年代の末に光吉氏が死去。2年後の2000年、デザインと機械工学を学んだモータースポーツ愛好家の修一氏は、長年温めていたドライビングシューズの販売構想を事業化する。ブランド名は、カンパリの「情熱の赤」が印象的なイタリア生まれのカクテル「ネグローニ」から取った。
販路もなく小さく始めたプロジェクトだったが、やがてプロのドライバーや車両開発者の目に止まり、評判を獲得していく。転機となったのは、今もブランドのフラッグシップ製品である「IDEA CORSA(イデアコルサ)」の誕生だ。ハードなドライビングにも耐えられる機能性と、日常使いできるスタイリングを両立させて「ドライビングシューズの新たなスタンダード」と称されるほどのヒットになり、ネグローニの評判を確実なものにする。
ブランドディレクターとして2014年に父の後を継いだ宮部修平氏は、グラフィックデザイナーでもある。ファクトリーを現住所に移転し、紳士靴の受託生産をやめてネグローニ事業に一本化を図ると同時に、新たなモデルを次々とリリースした。カラーリングにもこだわる宮部氏が強調するポイントは、素材となる天然皮革の風合いと品質だ。
取り出したのはイタリアの植物タンニンなめし革。ネグローニでは1つのモデルでもパーツごとにさまざまな革が使われる。カーボン素材を貼り付けたピエモンテ州ビエッラ産のスプリットレザー、トスカーナ州サンタクローチェの名門タンナー「ロ・スティヴァレ」によるロンバルディア・タン。滑らかな質感のカーフ革があれば、上品で柔らかいスウェード革、荒々しく野生的な風合いが魅力の革もある。
「植物タンニンは、ミモザやチェスナットなどのウッドチップを樹脂化して使うイタリアの伝統的な革なめし用素材です。香りをかぐと植物の香りがまだ残っていて、みずみずしくフレッシュで、甘い香りを感じます。これがケミカルなめし革との違いですが、イタリアの革にはイタリアの、フランスの革にはフランスの、イギリスの革にはイギリスの文化を反映した良さがあります」
クルマは、ライフスタイルに寄り添う存在になる
3代目として会社を継いだ2014年当初の宮部氏は、父とは違いそれほどクルマ好きではなかった。80年代に生まれ東京で育った若者にとって、クルマはあってもなくても構わない趣味のプロダクトという認識だったのだろう。「おそらく自分たちの世代がもっともクルマへの憧れから遠ざかっていた」と語る。
▲先代の修一氏が遺した書籍は眺めるだけで楽しい
そんな思いが変わっていくきっかけは、2015年からコロナ禍前の2019年まで毎年出展したイギリスの「グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード」だった。
「現地では1960年代までに製造されたクルマしか出られないレース(グッドウッド・リバイバル)も開催され、参加者は全員当時の仮装をするんです。イギリス車だけでなく、イタリア車もアメリカ車のオーナーもいる。そんな大らかな雰囲気が好きで、今につながる人脈ができました」
かつてはクルマを縁遠い存在と感じていた宮部氏が、クルマ文化を中心とした人々の輪に入り、国際的に交流する。結果として、各国の文化への理解がより深まって友情も芽生えた。海外からのオーダーが多く入ってくる今日の盛況もその成果だろう。
「幅広い世代に支持をいただいているネグローニですが、最近ではより若い層からの注目度が高まりました。そんな人々と接していて感じるのは、かつてのエンジニアリングやスペック一辺倒だったクルマの愛し方ではなく、ライフスタイルに寄り添ったデザインプロダクトのひとつとして、ニュートラルにクルマを見ているな、というスタンスの変化です」
アルファ ロメオとのコラボレーションも多いネグローニ。最後にデザイナーとしてどんな印象をアルファ ロメオに持っているかを宮部氏に尋ねた。
「真っ先に連想するのは、独自の『味』にこだわる部分があることです。歴代の車種においても、芸術的なデザインに挑戦しようと真剣にアプローチされていたのが見て取れます。一方でスーパーカー的な工芸品だけでなく、人々の日常に落とし込むようなモデルもヒットさせました。つまり、一般にも手が届く存在でありながら、しっかりしたアート性を感じさせるブランドですね。今度はどんなクルマを世に出すのだろうと、楽しみで仕方ありません」
NEW GIULIA / STELVIO VELOCE SUPERIORE:NEGRONI レーシングストライプウォレット
Text: | 神吉弘邦(ITALIANITY編集長) |
Photo: | Weekend. 望月勇輝 |